『日本式 基督論』終章 日本人とキリスト教


 日本とキリスト教との関わりについて見てきました。




第一節 振り返って

 ザビエルやフロイスの書き残したものを読んでみると、彼らの言うことには納得できない箇所がたくさんありました。それでも、彼らを嫌いになれないという面もあるでしょう。

 天正遣欧使節の少年たちの数奇な運命を思うとき、軽はずみな意見は慎むべきだという気持ちになります。特に中浦ジュリアンの生涯については、同意に至ることはないにしても、敬意を示すことが必要だと感じられます。

 新井白石の書いたものからシドッチの人格をうかがうなら、そこに高潔なものを感じることができるはずです。ただし、理屈の上では白石の方に筋が通っていると思われます。

 日本人がキリスト教に示した態度を考えるなら、日本人は道理や理性によって判断してきたと言えるでしょう。その際に、日本人はかなりの寛容さを示していますが、不寛容な相手には不寛容になっていることが分かります。




第二節 神社とお寺と教会と

 私の個人的な経験ですが、理系技術者である寺の次男坊と話したことがあります。その人が小さいころに仲が良かったのは、教会の息子だったというのを聞いて嬉しくなったことを覚えています。同じ町に、神社があったり、お寺があったり、教会があったりするのは、今の日本では普通のことです。そして、それぞれの子供たちがお互いに友達になれるのです。

 例えば、神社の子供や寺の子供や教会の子供が集まって、『論語』を読んで、「なかなか良いこと書いてあるんじゃない?」と話すことも、今の日本では普通にありえることなのです。これは、世界史における宗教上の争いを少しでも知っているなら、驚くべき事態だと言えます。

 宗教には寛容さが必要であり、そこに寛容さがあるのなら、後はきちんと考えていけば良い話になります。寛容さがないのなら、残念ながら、排除せざるをえなくなるのでしょう。




第三節 東の論語、西の聖書

 出典は不明ですが、「東の論語、西の聖書」という言葉を聞いたことがあります。

 人生には限られた時間という問題がありますが、『論語』と『聖書』に触れておくことは有益だと思われます。その内容についてどのような感想を抱くかは、おそらく生まれ育った環境に大きく左右されるのでしょう。個人的な感想ではありますが、現代の日本人が先入観なしに読むと、『論語』はうなずける箇所が多く、『聖書』には拒否感を覚える箇所が多いかもしれません。それぞれの書物の中心人物である孔子とイエスを比べてみることも、面白いかもしれません。




第四節 宗教との距離感

 宗教をどう考えるべきかという問題があります。科学技術が進んだ現代においても、この問題は依然として残っています。なぜなら、世の中には善悪という厄介な問題があり、科学は厳密に定義すれば、善悪の問題を論じることができないからです。善悪を語れない科学に対し、宗教はまがりなりにも善悪について語っています。ここに、宗教を考慮せざるを得ない理由の一つがあります。

 一神教系の宗教に顕著ですが、その宗教の教義が示す善悪を絶対視しがちです。日本人がキリスト教に馴染まない理由は、この固定化された善悪の設定があるように思えます。日本人には、絶対の善という観念が疑わしく思えてしまうのでしょう。ですから、善悪を論じる上で、検証や反証が可能な宗教は大いに参照しますし、実際にしてきました。しかし、それらが許されないような宗教には、拒否感を覚えてしまうのでしょう。

 そして、日本人にとっては、それで良いのだと思われます。




第五節 日本人の宗教心

 日本人は、土着の自然信仰を含めた広い意味での神道を基盤として、長い歴史を紡いで来ました。日本の基礎に、自然崇拝や祖先崇拝という「神道的なもの」があるのは間違いのないところです。その神道を基にして、様々な思想を受け入れ、取り入れてきました。

 その中でも、日本を基にして、日本に受け入れ、日本風に取り入れ、日本化したものとして仏教と儒教が挙げられます。日本には、神道と仏教と儒教などのそれぞれの教えが、互いに排斥するのではなく、一致を見るという考え方があるのです。

 日本人は、海外からの思想を柔軟に吸収してきたのです。その中の一つとして、キリスト教を考えることも、もちろん可能でしょう。ただし、そこには他の思想と比較検討できる寛容性が必要になるでしょう。

 人類は、おそらく滅亡するまで善悪の問題から離れることはできないのでしょう。それゆえ、それぞれの宗教は善悪を語っているという観点からも、参照に値するでしょう。そこでは、やはり寛容性についての考察が求められます。寛容性の無い宗教に対して、寛容性を発揮することは、やはり無理があると考えられるからです。





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