『聖魔書』[1-1] 創世記



 一なる神が存在する。



 一なる神が在る。

 一なる神が在った。一なる神が在るだろう。



 故に、

 一なる神が続いていた。

 一なる神が続いている。

 一なる神が続くだろう。



 一なる神は創世である。

 創世は一なる神である。



 創世界は真完全である。

 創世界は真完璧である。

 創世界は真完結である。



 一なる神は全知である。

 一なる神は全能である。

 一なる神は全善である。



 一なる神は世界を創世する。

 創世された世界があり、世界は創世を繰り返す。



 一なる神は良しとされる。

 一なる神は世界を肯定する。

 一なる神は言う。



「真理は、完全である。

 真理は、不完全である。

 真理は、完全と不完全である。」



 一なる神は、言われた。

(ことわり)あれ。」

 こうして理があった。理は世界を分け、世界は理によって分かれた。

 世界は、完全な世界と不完全な世界となった。



 一なる神は、世界を創世された。

 創世された世界は、完全な世界と不完全な世界であった。



 一なる神は言われた。

「真理の世界は、完全な世界と不完全な世界である。」



 一なる神は、完全な世界を見て良しとされた。

 一なる神は、不完全な世界を見て良しとされた。



 ここから語られる物語は、完全と不完全の間における物語である。



 それゆえ、これは不完全さを繰り返す世界の物語である。






【解説】

 『聖魔書』を開始します。すなわち、神をめぐる思考から、究極という観念を言語化するという無茶な営みが展開していくわけです。

 参照する書物は多岐に渡りますが、一なる神を記述するという試みからすれば、『聖書』の影響を無視するわけにはいかないでしょう。

 『聖書』は、キリスト教の視点からは『旧約聖書』と『新約聖書』に分かれています。『旧約聖書』の冒頭は、「創世記」から始まります。『聖書』を上回る思想的深みが要求されるわけですから、ここの「創造記」は、「創世記」を思想的に上回る必要があります。そのため、天地創造の記述からはじまる「創世記」に対し、それ以前の段階からの記述が要求されることになるわけです。

 そこで「創造記」では、天地創造に先立ったテーマが、つまりは存在と時間についての問題が問われることになります。『聖魔書』の冒頭「創世記」の最初の七文では、「過去→現在→未来」という前提が、それらの成立条件にまで遡って深められた上で、その流れが示されることになります。その導きにおいては、「存在」と「継続」を利用することで、時間の流れが効果的に記述されることになります。この短い表現で、非常に重要なテーマを端的に論じているので、こういった試みに興味を持っていただける方は、慎重に読んでみてください。

 そして、『聖書』を参照する以上、冒頭で触れておかねばならないテーマがもう一つあります。それは、不完全性についての問題です。すなわち、一神教系の宗教においては、完全な神が創った世界が、なぜこんなにも不完全なのかという問題が問われるということです。この問いに答えるには、いくつかの戦略が考えられます。

 まずは、不完全に見えるが実は完全なのだという回答が考えられます。この方法は、個人的に採用したくなかったので、不完全な世界をそのまま認めることにしました。そこで問題となるのは、不完全な世界であるということをどのように記述するかです。そのためには、完全な神から、不完全な世界を導くための理論が必要になります。

 ここをどのように表現するかは、『聖魔書』の思想的価値を左右しうるほどに重要な部分です。そのため、その記述には慎重を要します。

 あまり詳細に語るのは無粋ではありますが、最初の部分ということもあり、かなり厳密に(つまりはネタばれを恐れずに)論じてみます。まず、〈真理は、完全である〉という箇所と、〈真理は、不完全である〉という箇所は、論理学を学んでいれば何を指しているか分かるでしょう。前者は、「神の論理」と呼ばれることがあります。これらの前者と後者を包括するという観点から、「一なる神」は、「神の論理」の「神」よりも上位の「神」であることが分かります。

 つまり、ここでは上位の神を提示することによって、不完全性を抱え込まざるを得ないことを暗示しているのです。そして次は、さらに踏み込んで不完全性への言及が行われることになります。





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