『保守の思想』

 まずは、「保守」とはどのような思想かを簡単に追っていきます。
 保守思想や保守主義と呼ばれる考え方は、エドマンド・バークの『フランス革命の省察』に由来しています。バークは著作の中で、〈何らか変更の手段を持たない国家には、自らを保守する手段がありません。そうした手段を欠いては、その国家が最も大切に維持したいと欲している憲法上の部分を喪失する危険すら冒すことになり兼ねません〉と述べています。また、〈相続という観念は、確実な保守の原理、確実な伝達の原理を涵養し、しかも改善の原理をまったく排除しないということを、イングランドの民衆は熟知しています〉とか、〈私は変更をもまた排する者ではありません。しかしたとえ変更を加えるとしても、それは保守するためでなければなりません〉とも述べています。大切なものを守り保つこと、それが保守の思想なのです。
 マイケル・オークショットは『政治における合理主義』という著作の中で、「保守的であるということ」を論じています。その詳細は、〈保守的であるとは、見知らぬものよりも慣れ親しんだものを好むこと、試みられたことのないものよりも試みられたものを、神秘よりも事実を、可能なものよりも現実のものを、無制限なものよりも限度のあるものを、遠いものよりも近くのものを、あり余るものよりも足りるだけのものを、完璧なものよりも重宝なものを、理想郷における至福よりも現在の笑いを、好むことである〉とあります。続けて、〈得るところが一層多いかも知れない愛情の誘惑よりも、以前からの関係や信義に基づく関係が好まれる。獲得し拡張することは、保持し育成して楽しみを得ることほど重要ではない。革新性や有望さによる興奮よりも、喪失による悲嘆の方が強烈である。保守的であるとは、自己のめぐりあわせに対して淡々としていること、自己の身に相応しく生きていくことであり、自分自身にも自分の環境にも存在しない一層高度な完璧さを、追求しようとはしないことである〉と語られています。
 アンソニー・クイントンは『不完全性の政治学』において、〈伝統主義、有機体主義、政治的懐疑主義という三つの原理を本来の保守主義の思想を定義づける特徴〉として挙げています。
 西部邁は『焚書坑儒のすすめ』において、〈「社会についての有機体説」、「変化についての漸進主義」、「認識についての懐疑主義」、このtriade(三幅対)が保守思想なのです〉と述べています。また、『昔、言葉は思想であった』では、〈「懐疑・漸進・全体・伝統」、それが保守の観点カルテットなのです〉と述べています。
 これらの言説から、保守の思想をうかがうことができます。

 

 

 

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