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フリードリッヒ・リスト『経済学の国民的体系』

 

  フリードリッヒ・リスト(Friedrich List, 1789~1846)は、ドイツの経済学者です。ドイツ歴史学派の先駆者です。

 

第一節 『経済学の国民的体系』の経済学
 『(政治)経済学の国民的体系』(Das nationale System der politischen Oekonomie)は、1841年に発表されたリストの研究成果です。
 

第一項 リストの経済学
 リストの経済学についての考え方は、[序論]に示されています。このような考え方は、参照に値します。

 

 経済学は国際貿易にかんしてはその学説を経験から汲みとらなければならず、その方策を、現在の求めるところと個々の国民の固有の状態とを考えあわせて行なわなければならない。しかもこの場合、将来と全人類との要求するところを見誤ってはならない。したがって、経済学は哲学と政策と歴史との上に立脚する。

 

第二項 自由競争の条件
 自由競争の条件について、リストは次のように述べています。

 

 文化の点で大いに進んだ二国民のあいだでは、両者にとって自由競争は、この両者がほぼおなじ工業的発展の状態にあるときにしか有益に作用しないということ、また不運のために工業、貿易、海運の点で大いに遅れている国民は、それでもこれらのものの発達に必要な精神的・物質的資源を所有しているならば、なによりもまず自分で努力して、もっと進んだ諸国民と自由競争を行なうことができるようにならなければいけないということが、わたしにはあきらかになった。

 

 競争とは、同程度の力量の持ち主の間でないと、有益にはなりづらいものなのです。互いの力量を無視した自由競争の推進は、大きな禍根を残すことになりがちです。

 

第三項 国民国家論
 リストは、〈わたしの提示する体系の、学派との特徴的な相違として、国民国家をあげる。個人と人類との中間項としての国民国家の本質の上に、わたしの全建築は基礎をおいている〉と述べています。なぜなら、〈われわれの見るところでは、国民の精神と境遇とに、ことにそれが立脚する文化段階に、最も適した政治形態が最良のものである〉と考えられているからです。

 

  諸民族の生産能力は、たんに個々人の勤勉、節約、道徳、知能によって、あるいは自然資源および物質的資本の所有によって制約されているだけではなく、社会的、政治的、市民的な、制度と法律とによっても制約されており、なかでもとくにその国民国家の存続、独立、勢力によって制約されている。個々人がどれほど勤勉、節約、独創的、進取的、道義的、知的であっても、国民的統一がなく国民的分業および生産諸力の国民的結合がなくては、国民はけっして高度の幸福と勢力とをかちえないであろうし、またその精神的、社会的、物質的諸財をしっかりと所有しつづけることがないであろう。

 

 リストは、経済を国民国家において考えています。そのため、単なる自由貿易礼賛に陥ることなく、保護貿易の重要性について述べていくことになるのです。

 

第四項 保護貿易論
 リストと言えば保護貿易の考え方が有名ですが、リストは無条件の保護を訴えたわけではありません。例えば、〈外国の競争をまったく排除する極度に高い輸入関税は、それを課する国民自身にとって有害である。それによって外国に対する工業家の競争心が排除され、怠惰が養われるからである〉と語られています。
 リストの保護貿易擁護論は、国民を過度な競争から守るためのものなのです。

 

 ひとたび保護された工業部門に対する保護関税は、けっして、この工業が外国の競争によって存立をおびやかされるようになるほど大幅に引下げられてはならない。現存するものの維持、国民工業の根幹の保護は、不動の原則でなければならない。

 

 外国との競争によって国内の供給能力が毀損されることには警戒が必要です。そのため、リストの保護貿易論には参考に値します。リストは、工業力が他国を大きく上回る国(当時で言えばイギリス)では、自由貿易が有利な貿易体制になることを指摘してもいます。
 自由貿易と保護貿易の関係について、リストは進歩という考え方を持ち出して論じています。

 

 最後に歴史はこう教える。最高度の富と勢力とを追求するために必要なあらゆる手段を自然から賦与されている諸国民は、彼らの企図と反する結果とならずに、彼らの進歩の程度に応じてその制度を換えることができるし、またそうしなければならない。すなわち、彼らははるかに進んだ諸国民との自由貿易によって未開状態から向上して農業を発達させ、それからは制限によって自国の製造業と漁業と海運と外国貿易との興隆を促進し、最後には富と勢力との最高段階にのぼりつめたところで、自由貿易と内外の市場での自由競争との原理へしだいに回帰することによって、自国の農業者や製造業者や商人が怠惰になるのを防ぎ、既得の優越を確保するように彼らを刺激しなければならない。

 

 人類史の一部を切り取ることで、進歩史観に都合の良い帰結を取り出すことが可能です。リストは経済発展を五段階(未開状態・牧畜状態・農業状態・農工業状態・農工商業状態)で示していますが、このような傾向性は長い人類史の一部でしかなく普遍化できるものではありません。
 リストは工業を育成して供給能力を上げることで、段階的に保護関税を廃止して自由競争の原理を適用できると考えています。ですが、歴史の進歩は約束されたものではなく、リストの言うように簡単に話は進みません。予測を上回る事態によって、農業や工業は打撃を受けます。そのため保護関税などの措置は、状況に応じて適宜行う必要があるのです。

 

第五項 富そのものと富をつくり出す力
 リストは、富そのものと富を作り出す力をしっかりと区別して論じています。

 

 富の原因は富そのものとはまったく別のものである。個人は、富すなわち交換価値を所有することはあっても、自分の消費するよりも多くの価値を持つものをつくり出す力を所有していない場合には、やがて貧しくなる。個人は、貧しくはあっても、自分の消費するよりも大きい総計の価値を持つものをつくり出す力を所有している場合には、やがて豊かになる。
 富とつくり出す力は、だから富そのものよりも無限に重要である。それは獲得したものをしっかりと所有させまちがいなく増加させるだけではなく、失ったものをも十分に埋め合わせる。このことは私人の場合よりも、利子では暮せない国民というものの場合に、すべてずっとよくあてはまる。

 

 ここで語られている内容は、重要だと思われます。リストは、〈法律や公共の制度は、たとえ直接には価値を生産しないとしても、生産力を生産する〉と述べています。各種の制度を含め、国家にとって生産能力とは非常に重要な要素なのです。

 

第六項 国民経済学
 リストは、私経済学と国民経済学の関係について次のように指摘しています。

 

 われわれは、国民の統一が永続的な国民的福祉の根本条件だということを歴史的に確認し、また、私的利益が国民的利益に従属し諸世代がひきつづいて同一目的に向って努力したところでだけ、諸国民は生産諸力の調和的発達をとげたということや、同時代に生きる諸個人とつぎつぎに継続する諸世代とが共通の目的に向って一致した努力をしなければ、私的工業はめったに繁栄できるものでないということを指摘した。

 

 ここには、〈個人と人類とのあいだには、特有の言語と学芸とを持ち、固有の由来と歴史とを持ち、特有の習俗、習慣、法律、制度を持ち、存在、独立、進歩、永続に対する要求を持ち、区画された領土を持つ、国民が存在している〉という認識があるのです。その上で、〈国民の経済的育成を成しとげてそれに将来の世界社会へはいる準備をさせることが、国民経済学の任務である〉とリストは述べています。
 『経済学の国民的体系』には、国民国家の概念が明確に含まれているのです。

 

 国民精神は一般的福祉という地中にのみ根を生やして、美しい花を咲かせ豊かな果実をみのらせるのである。物質的利害の統一からのみ精神的力の統一が生まれ、この両者からのみ国民の力が生まれる。しかし、われわれが統治者であろうと被統治者であろうと、貴族の出であろうと市民階級の出であろうと、国民国家がなくわれわれの国民国家の永続に対する保障がなければ、われわれのいっさいの努力はなんの価値を持つであろうか!

 

第二節 『経済学の国民的体系』の問題点
 リストの考え方で問題なのは、やはりその進歩史観でしょう。国民の進歩の度合いに応じて、段階的に保護を減らしていって自由貿易に到達するという発想はいただけません。保護を設けることや取り除くことは、国民国家の状況に応じて適宜必要になることだからです。
 競争および保護は、一方通行に流れるものではなく、互いに平衡を取り合うべき関係にあるのです。

 

第三節 『経済学の国民的体系』から学ぶべきこと
 リストの考え方から学ぶべき点は、経済学に国民国家という概念を組み込んでいるところです。そのため単なる自由貿易だけではなく、国民のための保護貿易が問題となるのです。自由貿易と保護貿易を踏まえた上で、国際貿易について考える必要があるのです。
 また、富そのものよりも、富を生み出す生産能力を高く評価している点も重要です。もちろん、需要と供給の関係上、供給能力の過剰であるデフレーションなどには注意が必要です。適切な金融政策や財政政策を可能とする制度や法律を考慮した上で、国家の生産能力について慎重に戦略を練っていく必要があるのです。

 

 

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