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マルサス『人口論』

 トマス・ロバート・マルサス(Thomas Robert Malthus, 1766~1834)は、イギリスの経済学者です。

 

第一節 『人口論』の経済学
 『人口論(An Essay on the Principle of Population)』は、マルサスによる人口学の古典的著作です。1798年に初版が、1803年には大幅な訂正を加えて第二版が、1826年には最後の第六版が出版されました。
 マルサスはまず、〈人口はつねに生活物資の水準におしとどめられる〉ことを述べています。その上で、マルサスは次の二つの〈自明の前提〉を示しています。

 

 第一に、食糧は人間の生存にとって不可欠である。
 第二に、男女間の性欲は必然であり、ほぼ現状のまま将来も存続する。

 

 これらの前提の上で、マルサスは次の命題を提示するのです。

 

 人口は、何の抑制もなければ等比級数的に増加する。一方、人間の生活物資の増え方は等差級数的である。

 

 この命題は、数学的な知識があればその差が直ちに理解できることから、良く引用されるため非常に有名です。
 この命題に続いて、マルサスは議論を展開していきます。〈人類がかつて存在し、あるいはいま存在しているあらゆる国、あらゆる時代において、つぎの命題が成り立つことを認めないわけにはいくまい〉とあります。

 

 人口の増加は食糧によって必然的に制限される。
 食糧が増加すれば、人口は必ず増加する。
 そして、人口増加の大きな力を抑制し、じっさいの人口を食糧と同じレベルに保たせるのは、貧困と悪徳である。

 

 食糧と人口の差を埋めるものとして、貧困と悪徳が出て来ました。それゆえ、マルサスは、〈人口が増加するか、停滞するか、それとも減少するかは、まさしくひとびとの幸福、あるいは不幸の度合いに依存するのである〉という意味深な発言をしているのです。
マルサスは、次に示すような不可避の自然法則を提示しています。

 

 人間が想像しうる最高に美しい形の社会がつくられたとしよう。その社会をうごかす原理は、利己心ではなく利他心である。ひとびとの邪悪な部分はすべて、暴力によってではなく理性によって矯正される。ところが、そういう社会でさえ、きわめて短期間のうちに堕落する。今日のいずれの国でも見られるものと大差ない社会になってしまう。しかも、それは人間がもとから堕落しているからそうなるのではなく、まさしく不可避の自然法則によってそうなるのである。けっきょく、資産家階級と労働者階級に二分される社会、利己心をこの巨大なマシンの主な動力とする社会へと堕落する。

 

 この意見の提示の上で、マルサスは〈私は、人類がこれ以上成長しないとはけっして思わないけれども、いずれの国でも下層階級は欠乏や労苦から解放されず、したがって、知性を向上させるゆとりも得られないだろう。私が本書の眼目として、強く主張したいのはその点である〉と語っているのです。
 この憂鬱な世界観の上で、マルサスは次のような解決策(?)を述べています。

 

 文明国にはかならず資産家階級と労働者階級が存在するけれども、財産はなるべく平準化することが長期的には絶対に有利である。所有者の数が多くなれば、当然、労働者の数は少なくなる。つまり、社会の大多数が財産の所有者となり、幸福になる。自分の労働以外に財産をもたない不幸な人間は少数になる。

 

 マルサスは、〈この世に悪が存在するのは、絶望を生むためではなく、行動を生むためである。われわれはそれを堪え忍ぶのではなく、それをなくすために努力しなければならない〉と考えているのです。

 

第二節 『人口論』の問題点
 まずは、二つの自明の前提から見ていきます。一つ目の食糧は人間の生存にとって不可欠であるということは、その通りだと思います。二つ目の性欲は必然で存続するということについては、性欲を抑える方法もありますし、自慰行為や避妊具の使用など、性欲を人口増加から切り離す方法もたくさんあるわけです。
 人口増加が等比級数的で生活物資の増加は等差級数的だというのも、科学の発展によって生活物資の増産は予想以上の成果を上げたというのが現在までの状況です。ただし、生活物資の不足はこれからもつきまとう問題ではあります。
 次に、人口の増加は食糧によって制限されるということは、ある程度妥当だと思われます。しかし、食糧が増加しても人口が増加するとは限りません。裕福になった国では少子化が問題になったりするわけですし。ですから、人口増加を抑制するのは貧困と悪徳ばかりではないのです。富有と知徳も人口増加を抑制するのです。
 また、マルサスの示す不可避の自然法則とやらも、かなり疑わしいものです。利己心と利他心の二分法は雑すぎます。利己心も利他心も含み込んでこその社会です。マルサスの言う自然法則とやらは、厳密な意味での自然法則などではないのです。下層階級だって欠乏や労苦から解放される可能性のある社会は可能ですし、義務教育の採用により知性を向上させる可能性も生じます。
 マルサスの不吉な命題なり法則なりは、かなり的外れだったと言えるのです。

 

第三節 『人口論』から学ぶべきこと
 『人口論』の大きなテーマに、人口と食糧などの生活物資の関係があります。
 マルサスの議論には問題点が多々ありますが、人口と食糧および生活物資の問題が世界から無くなったわけではありません。この問題の起源は気が遠くなるほど古く、そして、おそらく人類史の終わりまで付きまとう問題なのでしょう。
 現在においても課題は累積し、現在のうちに考えておかなければならない問題点も多々あるのです。

 

 

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