ロビンズ『経済学の本質と意義』

 

  ライオネル・チャールズ・ロビンズ(Lionel Charles Robbins, 1898~1984)は、イギリスの経済学者です。

 

第一節 『経済学の本質と意義』の経済学
 『経済学の本質と意義(Essay on the Nature and Significance of Economic Science)』は、経済学の方法論に関して書かれた1932年の論文です。
 ロビンズは、〈一つの目的を達成するために時間と希少なる手段とを投入する一切の行為は、他の目的達成のためにそれらを使用することを断念することを意味する。それは経済的側面をもっている〉と述べています。このような考え方から、ロビンズは経済学を次のように定義しています。


 経済学は、諸目的と代替的用途をもつ希少な諸手段との間の関係としての人間行動を研修する科学である。


 この他にも、〈経済学は、所与の諸目的を達成するために諸手段が希少であるということから生ずる、[人間]行動の側面を取扱うものである〉とあります。
 この経済学の定義から、〈経済学は諸目的の間では全く中立的であること〉が表明されています。ロビンズは、〈いかなる目的にせよ、その達成が希少なる手段に依存するかぎり、それは経済学者の第一の任務と密接な関係をもつ〉と考え、〈経済学は目的それ自体を取扱うものではない〉と述べているのです。
 さらに具体的には、〈経済学は、人間は、定義され理解されうる行動をなす傾向をもつという意味において、目的をもつものと想定し、そしてその目的に向かっての前進が手段の希少性によってどのように制約されているか――この希少な手段の処分がこれらの究極的な価値判断にどのように依存しているか――をたずねるのである〉と説明されています。
 つまり、〈経済学は希少な諸商品の処分についての研究である〉というわけです。その経済学における主題の本質は、次のように提示されています。


 経済学の主題は、本質的には、一連の諸関係―― 一方においては、行動の可能なる目標として考えられた諸目的と、他方においては、技術的ならびに社会的な環境、との間の諸関係――であることとなる。

 

 また、ロビンズは、〈経済理論は形式を記述し、経済史は実体を記述する〉とか、〈経済学の命題はすべての他の科学の命題と完全に一致していることは明らかである〉などと述べています。そのため、〈経済学においては、われわれの基本的な一般法則の究極的な構成要素は、事実を直接に知っているという形でわれわれに知られている〉という想定がなされているのです。
 また、〈経済学の意義はなんであろうか?〉という問いには、次のように答えが示されています。

 

  われわれが究極的なものの間の選択に直面したとき、われわれは、経済学によって、自分の選択しつつあるもののいろいろの意味内容を完全に知って選択することができるということ、これである。

 

 この意義の上でロビンズは、〈結局、経済学は、その存在のためにではなくても少なくともその意義のために、まさに究極的な価値判断――合理的なこと、および、知識をもって選択しうること、が望ましいという断言――に依存する〉と述べています。

 

第二節 『経済学の本質と意義』の問題点
 まあ、どこから突っ込んでいけばよいのやら...。
 ロビンズの示した経済学の定義は非常に有名で、経済学の本で良く紹介されているようです。ロビンズの定義は、過去の経済学(エコノミクス)の遺産のほとんどを捨てさることで可能になるものです。過去の膨大な遺産のほとんどを捨て去り、経済学が科学的であることを標榜したわけです。そこには、科学的であることが善いことだという、科学的には導くことのできない思考作用が働いているように思えます。
 少なくとも、経済を経世済民として考えてきた日本の伝統とは一線を画する考え方ですね。
 確かに、経済において科学的な手法が必要であることは認めます。しかし、経済学が科学であるのなら、経済学者が経済学に基づいて何をすべきかを言うことが不可能になります。
 はっきり言っておくと、ロビンズの定義はいろいろな意味で致命的です。人間行動を組み込んだのなら、目的という価値に関わる事柄について、中立であることは不可能になります。そのため、科学を装った経済学においては、隠された指向性が作用することになります。つまり、中立を装った中立ならざる思考が作用することになるのです。このことは、極めて危険なことだと指摘しておきます。

 

第三節 『経済学の本質と意義』から学ぶべきこと
 科学的な手法は、当然ながら必要です。ですから経世済民としての経済では、それらの手法も含めて総合的・統合的に物事を考えていく必要があるのです。
 経世済民としての経済ではなく、科学としての経済学(エコノミクス)を選択する者には警戒が必要です。状況によっては、敵対することになるでしょう。

 



 

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