シュンペーター『経済発展の理論』


  シュンペーター(Joseph Alois Schumpeter, 1883~1950)は、オーストリアの経済学者です。計量経済学会の創立者の一人であり、米国経済学会会長も務めています。

 

第一節 『経済発展の理論』の経済学
 経済発展の理論(Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung)は、第1版が1912年に、第2版は1926年に刊行されました。
 

第一項 経済学における経済発展
 シュンペーターは経済行為について、〈ただわれわれにとっては、交換ないし生産を通じて財貨を獲得する経済行為のみが重要であるから、われわれは経済行為という概念をこの種の獲得方法に限りたいと思う〉と述べています。その上で、〈われわれは経済的事実一般についてと同じように経済発展について語る。その説明こそがここでのわれわれの目的である〉と語っています。

 

第二項 経済の発展
 シュンペーターは、〈「発展」とは、経済が自分自身のなかから生み出す経済生活の循環の変化のことであり、外部からの衝撃によって動かされた経済の変化ではなく、「自分自身に委ねられた」経済に起こる変化とのみ理解すべきである〉と定義しています。
 その上で、〈経済生活は変化するものであり、一部分は与件の変動のために変化し、経済はこれに対して適応する傾向がある。しかし、経済の変化はこれだけが唯一のものではない。このほかに、与件に対する経済体系外からの影響によっては説明されないで、経済体系内から生ずる変化がある〉と述べています。その変化は、〈その体系の均衡点を動かすものであって、しかも新しい均衡点は古い均衡点からの微分的な歩みによっては到達しえないようなものである〉と考えられています。〈郵便馬車をいくら連続的に加えても、それによってけっして鉄道をうることはできないであろう〉というわけです。
 シュンペーターは〈経済における革新〉について、〈イニシアティヴは生産の側にある〉と考えています。その根本現象は、〈われわれの意味する発展の形態と内容は新結合の遂行(Durchsetzung neuer Kombinationen)という定義によって与えられる〉と語られています。新結合について、シュンペーターが述べている〈五つの場合〉を次に示します。

 

一 新しい財貨、すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産。
二 新しい生産方法、すなわち当該産業部門において実際上未知な生産方法の導入。これはけっして科学的に新しい発見に基づく必要はなく、また商品の商業的取扱いに関する新しい方法をも含んでいる。
三 新しい販路の開拓、すなわち当該国の当該産業部門が従来参加していなかった市場の開拓。ただしこの市場が既存のものであるかどうかは問わない。
四 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得。この場合においても、この供給源が既存のものであるか――単に見逃されていたのか、その獲得が不可能とみなされていたのかを問わず――あるいは始めてつくり出されねばならないかは問わない。
五 新しい組織の実現、すなわち独占的地位(たとえばトラスト化による)の形成あるいは独占の打破。

 

 これらの新結合は、〈無から新しいものを創造し、これが従来から存在する流通に参加すること〉なのです。

 

第三項 銀行家と企業者
 シュンペーターは銀行家について、〈銀行家は単に「購買力」という商品の仲介商人であるのではなく、またこれを第一義とするものでもなく、なによりもこの商品の生産者である〉と述べています。さらに銀行家については、〈新結合の遂行を可能にし、いわば国民経済の名において新結合を遂行する全権能を与える〉存在として考えられており、つまりは〈交換経済の監督者〉と位置づけられているのです。
 また、企業および企業者という概念も登場します。〈われわれが企業(Unternehmung)と呼ぶものは、新結合の遂行およびそれを経営体などに具体化したもののことであり、企業者(Unternehmer)と呼ぶものは、新結合の遂行をみずからの機能とし、その遂行に当って能動的要素となるような経済主体のことである〉と説明されています。〈だれでも「新結合を遂行する」場合にのみ基本的に企業者であって、したがって彼が一度創造された企業を単に循環的に経営していくようになると、企業者としての性格を喪失するのである〉というわけです。


第四項 資本主義と資本
 シュンペーターは、〈新結合の遂行は労働用役および土地用役を慣行の用途から奪い取ることによっておこなわれる〉と述べています。そこには、資本が必要になります。
 まず資本主義については、〈新しい生産に必要な財貨が購買力の介入によって、すなわち市場における購買によって循環における特定の用途から引き抜かれるような経済形態が資本主義的経済であり、他方なんらかの命令力あるいは全員一致によってこれがおこなわれるような経済形態が資本なき生産を示す〉と説明されています。
 次に資本については、〈資本とは、企業者が彼の必要とする具体的財貨を自分の支配下におくことができるようにする梃子にほかならず、また新しい目的のために財貨を処分する手段、あるいは生産に新しい方向を指令する手段にほかならない〉とあります。さらに、〈資本とは、いつでも企業者の自由に委ねられる貨幣およびその他の支払手段の金額であると定義しよう〉とも説明されています。
 さらに資本市場については、〈購買力の市場、すなわち企業者の手に支払手段が与えられるようになる経過の総体〉とあり、〈資本市場とは実際上金融市場と呼ばれている現象と同じものである〉と説明されています。

 

第五項 景気
 シュンペーターは、〈すなわち通常新しいものは旧いものの中から発生するのではなく、むしろ旧いものと並んで登場し、これを打ち負かし、あらゆる関係を変化させ、その結果、ひとつの特殊な「秩序化の過程」が必要になるという事実を考慮しなければならない〉と述べています。
 そこには、〈経済的経過は三つの異なった部類に分けられる。循環の経過、発展過程の経過、および発展過程の攪乱のない進行を妨害する経過である〉という考え方があります。
 シュンペーターはこの時点では、〈「新結合の遂行」は困難であり、ただ一定の能力をもった人々にのみ可能である〉とか、〈少数の人々だけがこの「指導者能力」をもち、少数の人々だけがこのような状態すなわちまだ「好況」ではない状態において、この方向[新結合の遂行]において成功することができるのである〉と述べています。そして、〈いったん一人あるいは数人のものが成果を挙げて先駆するならば、多くの困難は除去される。これらの先駆者に他の人々が続くことができる〉と考えているのです。
 不況については、〈不況過程の経済的本質は、好況の成果が均衡への接近のメカニズムによって国民経済全体に拡散されること〉だと考えられています。

 

第二節 『経済発展の理論』の問題点
 イニシアティヴは生産側にあると考えていることから、シュンペーターが需要側を軽視していたことは否めないでしょう。
 不況に対する考え方についても、特に需要側からの一考が必要になります。シュンペーターの不況は新結合を組み込んだ経済の一過程であり、ケインズのような有効需要の不足によって不況が発生するという見方とは異なっています。
 また、シュンペーターは『経済発展の理論』の時点では、能力ある少数によって新結合が遂行されると考えていました。しかし、後の『資本主義・社会主義・民主主義』では、進歩そのものを予測する一群の専門家の仕事によって、経済進歩が非人格化され自動化される傾きがあると考えるようになっています。
 無難な意見を述べておけば、どちらの側面もありえるということでしょう。

 

第三節 『経済発展の理論』から学ぶべきこと
 シュンペーターが示した新結合の概念は、イノベーションとも呼ばれますが、経済を考える上で非常に重要です。イノベーションの概念を組み込んだ上で、経済を考える必要があるのです。
 イノベーションは、少数の天才によってもたらされるにしろ、大企業の組織力によってもたらされるにしろ、不確実性が付きまといます。その不確実性は、まず発生そのものが予測困難であること、次に発生した際に何が起こるか予測困難であること、この二つを想定しておく必要があります。
 イノベーションは、発生しないことで経済を停滞させる可能性があり、発生することで経済を混乱させる可能性があります。そのため、イノベーションがなかなか発生しないような事態のために、脱成長社会の構想が必要になります。さらに、イノベーションによる社会の混乱に対処するため、事前および事後の両面から、法整備を含めた対応策の検討が必要になります。



 

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