『日本式 経済論』経世済民の章
日本史上における経済論を見てきました。
ここでいう日本の経済とは、英語の「(political) economy」の訳語ではなく、世を経(おさ)め民を済(すく)う「経世済民」のことでした。別の角度から言えば、システムの効率性という観点からではなく、国民の生活という観点から考えるのが、日本の経済思想だと言えるでしょう。
第一節 日本人の国民性
世を経(おさ)め民を済(すく)うためには、その民の特性を考慮する必要があります。その対象が日本人という国民なら、日本史および世界史を通じて、日本人の国民性を考えておくことが有益でしょう。人間は歴史的な存在であり、過去からの影響を多かれ少なかれ受けていると考えられるからです。
その上で、個人と共同体が区別されることになります。特に、個人や企業と国家や政府の違いは重要です。それぞれにおいて、目指すところが異なると想定されるからです。そこにおいて、需要と供給の関係について考えることができるでしょう。その過程において、人間は多様だということも、改めて確認できることでしょう。
日本史上における経済論では、いわゆる経済学の知識だけではなく、政治学、地理学、社会学、心理学などの多様な知識が複合的に展開されていました。経済が他の分野とも関わっている以上、それは当たり前のことだと思われます。
第二節 日本のお金
国家の信用に基づいたお金(貨幣)についても、参考になる見解が多く含まれていました。それらの見解を参照し、現実の政策について活かすことが求められるでしょう。
例えば、通貨発行当局が政府内にある管理通貨制度の場合、金本位制の場合に比べて、柔軟な国債の運用が可能になるでしょう。日本の場合、円建ての日本国債については、円通貨の増発で対応することが可能だからです。
つまり、お金の循環を経世済民という観点から考えるべきだということです。具体的には、政府の借金の返済方法について、税収・借り換え・日銀引受(貨幣増発)などの方法が考えられます。実際の状況に応じて、適切に使い分けて対処していくべきでしょう。高橋是清が適切に述べていたように、財政の収支均衡を維持する以上に、緊急で対応しなければいけない事態がありえるからです。すなわち、経世済民が大切だということです。そのため、日本の将来へ向けた経済政策として、状況に応じた財政政策と金融政策が必要になるのです。
第三節 世界の中の日本
日本史上における経済論を参照することで、日本人という国民性に根付いた経世済民の可能性が仄見えてきます。その上で、今度は他国の経済論を参照し、比較検討し、今後に活かすことが必要になってくるでしょう。そのため、「(political) economy」の訳語としての「経済学」との対比についても、行われるべきでしょう。
例えばポスト・ケインジアンの理論を参照し、貨幣における外生的貨幣供給論と内生的貨幣供給論(貨幣供給は需要によって決まるという貨幣理論)を統合して考えることなどが挙げられます(構造派の理論も重要)。それぞれは主に、資金需要が多い好況期と少ない不況期という実際の状況に応じて使い分けていくことが必要かもしれません。
経済論という観点から、他国との付き合い方を考えることも必要でしょう。そこではグローバリズム(地球主義)ではなく、インターナショナリズム(国際主義)が要請されることになるでしょう。そこでは、競争と保護を状況に応じて使い分けていくことが重要になります。
日本の経済では、資本主義にも労働主義にも偏ることなく、資本と労働の協調による調和を図っていくべきでしょう。そうすることによって、労働者の賃金と雇用の実現を第一にし、第二に資本の利益と蓄積を実現するのです。つまり、労資協調経済が目指すべきものになりえるでしょう。
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