TOP 概要 自己紹介 論文 小説 日記 本の感想 LINK


  にほんブログ村 人気ブログランキング に参加しています。1日1クリックお願いします!
  にほんブログ村 哲学・思想ブログ 思想へ         

  

日本式経済論:本多利明『経世秘策』の章

 

 本多利明(1744~1821)は、江戸後期の経世家です。数学・天文学・蘭学などを学び、諸国を歴訪して見聞を広め、貿易振興による富国策を説きました。著書である『経世秘策』から、経済についての考え方を見ていきます。

 

第一節 日本国家
 利明は、〈日本に生を稟たる者、誰か国家の為を思ひ計らざらん〉と述べています。ここでの国家は、藩ではなく日本全体を指しています。
 当時の時代状況において、〈万民は農民より養育して、士農工商・遊民と次第階級立て釣合程よく、世の中静謐にありしを〉と語っています。農民から始め、各階級の釣り合いによって世の中に落ち着きをもたらそうとしていることが分かります。

 

第二節 通用金銀
 通用する金銀貨については、〈通用金銀に際限有て放ちあたへ、四民も階級を締(しめ)保(たも)ち、爵禄といへども貧富に係れば、通用金銀の際限を建ることは肝要なり〉とあります。流通させる金銀貨に一定の枠を定め、士農工商の四階級をしっかり保つことを説いています。身分と俸禄も貧富に関わるため、通用する金銀貨に一定の枠を定めることが重要だというのです。
 さらに、〈通用金銀の多少差引は治道第一の政務なり。通用金銀を以時勢を制作し、四民の稼稷(かしょく)に懈怠せぬ様仕向するを治平の国君の天職とせり〉とあります。通貨量を、多い少ないに応じて伸縮させ物価を調節することは、世を治めるための政治第一の役割だというのです。通貨量の調節により、世の状態を良好に導き治めることを説いています。その上で、士農工商の生計において、なまけないように民を方向づけることが、国民的君主の天職だとされています。

 

第三節 四大急務
 利明は、〈治平には是非ともに、此四大急務を以、国政の最第一〉と述べ、国を治めて平らかにするための四大急務を掲げています。
 具体的には、〈四大急務と云は何を以名付たるとなれば、第一焔硝(えんしょう)、第二諸金、第三船舶、第四属国の開業をいへり。此四箇条は当時の大急務なる故に四大急務と云〉と述べられています。焔硝とは、火薬の原料の硝石のことです。諸金とは、金・銀・銅・鉛の諸山のことです。船舶は、人や荷物を載せて水上を走る交通機関のことです。属国の開業とは、植民地の開発のことです。以下、その内容について見ていきます。
 まず、〈第一 焔硝と云は、土地に焔硝を生ず、海中に潮汐(ちょうせき)を生ず、天下万民皆然り。太陽の温り、火の変性也〉とあります。潮汐とは海水のことであり、ここでは塩を指しています。天下万国は、世界のすべての国を指しています。火の変性という言葉は、火は太陽から発して宇宙にみなぎり天気となり、水とまじって地気となり、天気が大地を通って万物・万象を生じ、地・水・火・風を万物の元素とし、中でも火を根源的なものとみなすという宇宙観が下地になっています。利明は、太陽熱が地中に入って焔硝となり、海中に入って塩気となると考えていたのです。
 次に、〈第二 諸金と云は、諸国にこれある金銀銅鉄鉛山なり〉とあります。〈何(いず)れ国用万事の根本たる金銀銅なれば、日本を出て異国へ抜け行ぬ様に制度建立ありたし〉と語られています。重要な鉱物が、日本から他国へ流れていかないように制度を整えるべきことが説かれています。
 次は、〈第三 船舶と云は、天下の産物を官の船舶を用(もちい)て渡海・運送・交易して、天下に有無を通じ、万民の餓寒を救ふを云なり。渡海・運送・交易は国君の天職なれば、商民に任すべきに非ず〉とあります。官営貿易によって、交通網を管理して危機に備えることが説かれています。
 最後の〈第四 属島の開業〉については、〈此段憚る事の多ければ、爰(ここ)に省きぬ〉とあります。当時の状況では、幕府に憚るべき問題が多かったため、利明は『経世秘策』の補遺で論じています。

  

第四節 人民天民
 利明は、〈天民一人廃亡するは皆国君の科(とが)なり〉と述べています。天民とは、君主が天からさずかった掛け替えのない民のことであり、一人の損失も国君の責任だというのです。
その上で、〈天下の国用に不足することなし。此の如く成行く人民の増殖する勢ひを、折(くじか)ぬやうに治るを全政とせり〉と説かれています。人口を増やすことも政治の役割だというのです。
 〈領国の庶民は、天民にして預り者ならずや。一人にても大切の天民なれば、見殺にすべき道理あるべきや〉ともあります。天から預った民は、君主の私の民ではないというのです。〈外の産物と事替て、二十ヶ年の星霜を積て国用に達する物なれば、一人の国民も大切也〉ともあります。国民は、単なる物とは異なり、二十年の年月を経て役に立つようになるものなので、一人の国民といえども大切にすべきことが説かれています。
 利明は、〈世に独立といふことのならぬ事あり〉と考えています。〈世に独立といふことは決てならざるなり〉というわけです。ここでいう独立は、自分ひとりで孤立することを意味しています。人間社会における国家を離れては、とうてい経済的生活を営んでいけないという理を説いているのです。そのため、〈世に独立といふことは決てならざるなり。是を名て国恩といへり〉と語られています。

  

第五節 日本国務
 日本については、〈日本は海国なれば、渡海・運送・交易は、固(もと)より国君の天職最第一の国務なれば、万国へ船舶を遣りて、国用の要用たる産物、及び金銀銅を抜き取て日本へ入れ、国力を厚くすべきは海国具足の仕方なり〉と述べられています。日本は海洋国家だという条件は、必然的につきまとっている課題であるというのです。海洋国家における方策について、渡海・運送・交易の重要性が述べられています。
 利明は、〈算数を以台となし、天文、地理、渡海の道に透脱し、何一(なにひとり)闕目(かけめ)なき様にせざれば、物毎に差支ることのみ多くして、何事も末遂て相続することなりがたし〉と考えています。ここでの算数は、国務における基礎としての数理の法のことです。広くは自然科学的、合理的認識を指しています。
 国家間の交易に対しては、〈日本人同士の交易と殊違ひ、損金あれば真の損金となる〉ことが指摘されています。〈異国交易は相互に国力を抜取んとする交易なれば、戦争も同様なりき〉というわけです。国家間における交易は、弱肉強食の色合いを帯びてくるという認識が見受けられます。
 国務については、〈天下国家に益ある仕方に勉るを名て、国務といふ〉とあります。その上で、〈国務の本は船舶にあり、其船舶は海洋渉渡(しょうと)を自在にせざれば国用を達ること難し。海洋渉渡を自在にするには天文・地理・渡海の法に熟さするにありて、外に拠あるに非(あらず)〉と語られています。日本に国益をもたらすために、合理的認識において海上の航路を制すべきことが説かれています。

  

第六節 慈仁
 利明は、〈根本は則国君の慈仁にあるなり〉と述べています。国君の慈仁とは、統一国家の君主や藩主が、民をいつくしみ愛する態度のことです。利明は、国家や政治の理想を実現する主体を国君の徳器に期待しているのです。
 続いて、〈又其慈仁の根本を勉め給はんに、明察を先んじ給はず、問ふことを好み、誹謗の言迄を挙げ容れ、短なる所あれども是を扶け、長ずる所もあらば、扶るに小善をも大善の様に取なし、悉皆(しっかい)の意に協(かな)ふ様にし給へば、衆も又群て佐(たす)け奉れば、何事も意の如く成就せん〉とあります。明察とは、国君の方から明智を以て推察することです。問ふこととは、民の方から問題を提起してもらうことを意味しています。非難までも考慮し、短所を退け長所を発揮し、小さな成果も大きく取り上げ、すべての意見を取り入れて民衆を助ければ、何事も適うというのです。

  

第七節 『経世秘策』考
 本多利明の『経世秘策』には、経済についての方策が示されています。
 利明は、日本国家の為になることを考えています。そのために、農民の養育から始め、各階級の釣り合いによって世の中に落ち着きをもたらそうとしています。
 そのための方法として、通貨量を制限することで物価を調節することや、民が生計を怠らないように目指すべき方向を示すことを政治に求めています。
 世を治めるための具体策としては、四大急務が挙げられています。利明は、火薬・鉱物・船舶・植民地の四つを重要なこととして考えているのです。
 利明は、民の一人の損失も国君の責任とし、民の重要性を説いています。そのため人口を増加させる政策や、長期的な人材活用について論じています。一人では経済活動は不可能であり、多くの人民から成る国家によって、はじめて活発で安定的な経済活動が可能になるからです。
 日本は海洋国家であるため、渡海・運送・交易の重要性についても語られています。その基礎として、自然科学的・合理的認識としての数理の法が挙げられています。
国家間の交易においては、損得が国力に関わることが指摘されています。そのため、国務として天文・地理・渡海によって、海洋渉渡を自在にすべきことを提案しています。
 また、利明は慈仁も必要だと述べています。慈仁では、国君の推察が必要であると同時に、民からの問題提起も必要だとされています。あらゆる意見を取り入れて、民衆を助けることの重要性が示されています。

 

 

 『日本式 経済論』の【目次】 へ戻る
 論文一覧 へ戻る

ウェブページ

Powered by Movable Type 5.12


  にほんブログ村 人気ブログランキング に参加しています。1日1クリックお願いします!
  にほんブログ村 哲学・思想ブログ 思想へ         

  

Access Counter
TOP 概要 自己紹介 論文 小説 日記 本の感想 LINK