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日本式経済論:太宰春臺『経済録』の章

 太宰春臺(1680~1747)は、江戸中期の儒学者です。荻生徂徠(1666?1728)に学び、特に経世済民の学において徂徠学を継承しています。著書である『経済録』から、経済についての考え方を見ていきます。

 

第一節 経済
 春臺は、〈経済ハ、古ト今ト時ヲ異ニシ、中華ト日本ト俗ヲ異ニスレドモ、是ヲ行フ術ハ、少モ異ルコト無シ〉と述べています。経済は時代や国が違えども、方法論は変わらないというのです。続いて、〈若シ古ニ宜クテ、今ニ宜シカラズ、彼国ニ宜クテ、此国ニ宜シカラザルハ、聖人ノ道ト云ベカラズ。是ヲ行フテ、行ハルト、行ハレザルトハ、行フ人ニ在リ〉とあります。結局のところ、経済はそれを行う人次第だというのです。
 経済そのものについては、〈天下国家ヲ治ルヲ経済ト云。世ヲ経シテ民ヲ済フト云義也〉と説明されています。世を経(おさ)め民を済(すく)うことが、経済だというのです。

 

第二節 沿革と損益
 沿革と損益について説明されています。〈沿革トハ前代ノ政ニ因ルヲ、沿ト云、前代ノ政ヲ[改ムルヲ]、革ト云。又損益ト云コト有リ。前代ノ制度ヲ減裁スルヲ、損ト云、増加スルヲ、益ト云〉とあります。沿革の「沿」の部分は以前からの政治に従うことであり、「革」の部分は改めることだとされています。損益の「損」の部分は以前からの制度を減らし、「益」の部分は増やすことだとされています。〈損益ハ一事ノ上ニモ有ル也。歴史ヲ読者、是等ノ義ヲ以テ、古来経済ノ不同ナルコトヲ知ベシ〉とあります。一つの小さな出来事にも損益が発生するため、歴史から義を学んで経済に通じておくべきことが語られています。

 

第三節 知るべき四点
 春臺は、〈経済ヲ論ズル者、知ルベキコト四ツ有リ〉と述べています。その中身は、〈一ツニハ時ヲ知ルベシ。二ツニハ理ヲ知ルベシ。三ツニハ勢ヲ知ルベシ。四ツニハ人情ヲ知ルベシ〉とあります。経済において、知っておくべき四点が挙げられています。
 一点目は、時を知ることです。〈一ツニ時ヲ知ルトハ、古今ノ時ヲ知ル也〉とあります。時を知るとは、古今に通じることだとされています。〈治道ヲ論ズルニハ、時ヲ知ルヲ最要トスル也〉とあるように、世を治めるには時を知ることが重要視されていることが分かります。
 二点目は、理を知ることです。〈二ニ理ヲ知ルトハ、理ハ道理ノ理ニ非ズ、物理ノ理也。物理トハ、凡物ニハ必理有リ〉とあります。経済において知っておくべき理として、物理が挙げられています。ここでいう物理とは、例えば〈物ノ理ニハ必順逆有リ。サル故ニ物ヲ治ルニ、理ニ順ヘバ治リ、理ニ逆ヘバ治ラズ〉と説明されています。為政者については、〈政ヲ為ス者、事々ニ就テ其理ヲ求ムベシ。既ニ其理ヲ得テハ、其理ニ順テ逆ラハヌ様ニ行フベシ。是ヲ理ヲ知ルト云也〉と説かれています。
 三点目は、勢いを知ることです。〈三ツニ勢ヲ知ルトハ、勢ハ事ノ上に在テ、常理ノ外ナル者也〉とあります。具体例としては、〈譬バ水ト火トノ如シ。水ハ火ニ勝者ナレドモ、少ノ水ヲ以テ大火ヲ救フコト能ハザルハ、火ノ勢強ケレバ也〉と説明されています。勢いは理と合わせて論じられていて、〈必理勢ノ二ツヲ兼明ラメテ、理ノ達セザル所ヲバ、勢ヲ以テ是ヲ達シ、勢ノ行ハレザル所ハ、理ヲ以テ是ヲ行ヒ、理ヲ以テ勢ヲ主ドリ、勢ヲ以テ理ヲ佐ケ、理勢相済(な)シテ、両ナガラ其用ヲ尽ス。是政治ノ要術也〉とあります。理と勢いの両方を踏まえた上で、政治を行うべきことが語られています。
 四点目は、人の実情を知ることです。〈四ツニ人情ヲ知ルトハ、天下ノ人ノ実情ヲ知ル也。実情トハ、好悪・苦楽・憂喜ノ類ヲ云。好ハスキコノム也。悪ハニクミキラフ也。苦ハクルシム也。楽ハタノシム也。憂ハウレフル也。喜ハヨロコブ也。人ニ此情無キ者有ラズ〉とあります。政治においても、〈政事ヲ施シテ、人情ニ協(かな)ヘバ、民従ヒ易シ。人情ニ悖(もと)レバ、民従ハズ〉とあるように、人情を考慮すべきことが語られています。

 

第四節 人情
 春臺は、人の情の弱さも熟知しています。精神力の強い武士については、〈士大夫ハ大抵義ヲ知テ道ヲ守ル心モ有ル者〉と見なす一方で、〈小民ハ義ヲ知ラズ、道ヲ守ル心モ無ケレバ、情ヲ抑ヘ、情ヲ制スルコト能ハズ〉と述べ、精神力の弱い民も想定しています。武士は情を制して生きていますが、意志薄弱な人は情に流されて違法なこともしてしまうという事実により、〈昔ヨリ、人情ニ悖タル政ノ永久ニ行ハレタルハ有ラズ〉と考えられています。
 仁政については、〈君上ノ下ヲ愛スルコト、父母ノ子ヲ愛スルガ如ク、民ノ好悪ヲ知テ、其情ニ悖ラザルヲ仁政ト云也〉と語られています。子供を愛するように民を愛するのが、仁のある政治だというのです。
 春臺は、〈人情ヲ知ルコト、物理ヲ知ルヨリモ難シ。物理ハ、善ク書ヲ読ミ学問シタル者ハ是ヲ知ル。人情ハ書ヲ読ミ学問シタル計リニテモ知ラレズ〉と述べています。人情は、物理よりもよっぽど難しいというのです。なぜなら、〈唯善ク学問シタル上ニテ、其品々ノ人ニ近ヅキテ、親ク其事ヲ見聞シテ、一々ニ其人ノ身ニナリカハリテ、其隠微ノ所ヲ深ク察シテ、其所業ト其言語トニ意ヲ注デ、精ク思惟スレバ、其大要ヲ得ル也。サモナクテハ、決シテ人情ニ通ズルコト能ハズ〉と考えているからです。人情に通じるには学問だけでは不十分であり、実際の状況や環境に身を置き、注意深く観察し考察しないと分からないというのです。

 

第五節 経済と政治
 春臺は、〈学問有リテ古今ノ世変ニ達シ、時ヲ知リ理ヲ知リ、勢ヲ知リ人情ヲ知テ、経済ノ道ヲ明メタル者ヲ、卑賤ヨリ挙テ、是ヲ補佐トシテ治道ヲ論ジ、政事ヲ議シ不易ノ定法ヲ立玉ハヾ、天下何ゾ治メ難カランヤ〉と述べています。経済に通じた人なら、身分に関わらず政治に参加させるべきことを説いています。
 経済については、〈経済ハ、古ヲ稽ヘ、古ヲ師トスルヲ尚ブ〉と語られています。春臺は、〈古ヲ稽ヘ古ヲ師トスト云ヘバトテ、古ノ政ヲ悉今ノ世ニ行フベシトニ非ズ。古ノ政、今ノ世ニ行ヒ難キコトモ多シ〉と考える一方、〈然ドモ政ニハ大体ト云モノ有リ。古ノ道ヲ本トセザレバ、政ノ大体ヲ知ルコト能ハズ〉とも考えています。つまり、古きを学び、学び取った政治の大本を今に活かすべきことを述べているのです。

 

第六節 国の政治
 国を治めることについては、〈国ヲ治ル道モ、人主ノ一代々々ノ物好ニテ、先君ノ政ヲ替ルハ、治ルニ非ズシテ、乱ヲ速(まね)ク道也〉とあります。ある特定の世代が、好き勝手に以前から続いている政治を替えてしまうと混乱の基になるというのです。
 春臺は、〈其本ヲ善クセズ、世ノ移リ行クニ任セテ、悪クナリコヂレタル国家ヲ、一旦ニ治メテ善クセントスルハ、彼庸医ノ難病ヲ治スルガ如シ〉と述べています。基本から善くしようとせず、惰性に任せて悪くなってしまった国家を善くしようとすることは、難病を治すくらい難しいというのです。続いて、〈政令ヲ出セバ出スホド、民情ニ逆ラヒテ治マラズ、却テ乱ヲ速(まね)ク道也〉とあります。いたずらに法律で縛れば民は逆らうため、かえって世の中は乱れるというのです。ではどうすれば善いかというと、〈其時ニ無為ノ道ヲ知リタル者ハ、手ヲ著ケズ、治メズ、只民ノ元気ヲ養フテ、ユガミナリニモ、国運ヲ少モ長クスルコトヲ計ル。是ヲ善治ト云、是ヲ不治ノ治ト云〉と語られています。民の活力が、うまく働くような政策を勧めていることが分かります。

 

第七節 『経済録』考
 太宰春臺の『経済録』には、「経済」とは、世を経(おさ)め民を済(すく)うことだと論じられています。
 経済においては、以前からの政治に従う部分と改める部分の区別や、制度を増やしたり減らしたりすることの区別が必要だというのです。そのため、歴史を学ぶことで経済を知るべきことが説かれています。
 春臺は、経済の論点を四つ挙げています。「時」と「理」と「勢い」と「人情」です。「時」は、古今に通じることです。「理」は物理のことであり、「勢い」は実際の物事の動きのことです。単純化して言うと、「理」が物理公式であり、「勢い」は公式の変数値および公式から導かれる結果のことです。そのため、「理」と「勢い」は両方合わせることで役に立つと考えられています。「人情」は、人間の好悪・苦楽・憂喜などの感情のことです。
 「人情」について春臺は、感情を制する人と感情に流される人の両方を考慮しています。その上で、人情に合った政治、特に為政者が民を自身の子供のように愛する仁政を勧めています。春臺は、人情は物理よりも難しいと言います。物理は本を読めば分かりますが、人情は実際の状況や環境において、注意深く観察や考察を行わないと分からないからです。
 春臺は、経済に通じた人を身分に関わらず政治に参加させるべきことを説いています。経済においては、古い事柄を学んで、学び取った政治の大本を今に活かすべきことも説いています。
 国の統治については、特定の世代が好き勝手に政治を替えてしまうことが混乱の基になると語られています。基本から善くすることが必要なのであり、いたずらに法律で縛ろうとすれば民は逆らうため、かえって世の中は乱れると考えられています。そのため、民の活力がうまく働くような政策が勧められています。

 

 

 

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