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日本式経済論:横井小楠『国是三論』の章

 

 横井小楠(1809~1869)は、江戸末期の熊本藩士です。明治維新後、暗殺された。著書である『国是三論』から、経済についての考え方を見てきます。

 

第一節 節約と倹約
 まず、節約や倹約については、〈大節倹を行ふて衣食住を初(はじめ)不益を省き有用を足す事なれ共、不益を省ひて猶足らざれば遂に有益を省くにいたる〉とあります。節約によって経費を必要なところに回すといっても、不足だといって必要なところを削れば意味がないというのです。節約や倹約において、注意すべきことが示されています。
 また、〈奢侈已(すで)に気習となつて奢侈たる事を思はず、却て節倹を以て困難苛酷の新法の如く心得、己に益するの上旨を察せずして自ら損しても猶驕惰の習慣に安んぜんと欲する故、人情にをいて払戻(ふつれい)なき事あたはず〉とあります。すでに贅沢に馴れきった状態では、民は節約のための法を、苛酷な悪法だと見なすというのです。御上の思召しに対し、奢り怠けることで返すため、人情に悖ることになるというのです。

 

第二節 交易
 交易については、〈交易の道開けたれば外国を目的として信を守り義を固(かたく)して、通商の利を興し財用を通ぜば、君仁政を施す事を得て臣民賊たる事を免かるべし〉とります。外国との交易では、相手との信義を守って貿易の利益を得て収入を確保すれば、君主は仁政を為し、家臣は賊となることはないというのです。

 

第三節 産業政策
 産業政策については、〈諸物品を作り出し或は作り増(まさ)んと欲すれ共、力足らずして意の如くなる事を得ざる者多し。官又是に銭穀を貸して其の意を遂しめ、其物品を官に収め、其価によつて其債を償しめ、又利息を見る事なければ民大に便を得て且恵を蒙るべし〉とあります。増産の意欲がありながら、資力がなく果たせない者に対しての政策です。政府は、生産するに資力不足の人民に対し金や食料を貸与して希望を実現させよというのです。その後、生産された品物を政府に納め、その価格によって先に貸与した金・食料の負債をつぐなわせ、利息をとることをしないという政策が提示されています。

 

第四節 研究開発
 研究開発については、〈諸物件其他民間所産の生育・製法等に付、簡便の方法・器械等あるは、先づ官に試み其実験を経て是を民に施し、教へ導くに惻怛(そくだつ)の良心を以てすべし〉とあります。民間の生産物において、栽培法や製造法について簡便な方法や便利な器械などがある場合は、まず政府が実験を行い、有用性を確かめてから民に親切に指導すべしということです。
 さらに、〈官府に於て十分試験に及び、衆人の信を取りて後施し行ふべし。たとひ便法なり共、新(あらた)の事を強ふれば、却て民心を害する事多し〉と語られています。政府で十分に試験し、皆の信用を得たときに採用するのがよいというのです。なぜなら、便利な方法であっても、新しいことを強制すると民が反発することがあるからです。
 他にも、〈工・商も亦同じ。其米銭を貸し其便利を教へ其活計を通利せしむ〉とあります。工業や商業についても同様であり、資金を貸し付け、技術を教えて新しい生産にたずさわらせ、利益を上げるべきだというのです。
 また、〈遊手徒食の類、皆其好む処に随ふて各其職業に就しむるに、其用・其具悉く官より是を貸すべし〉ともあります。無職で遊んでいる者へ、それぞれの希望に沿った仕事につかせ、必要な資金や用具を貸してやることが語られています。

 

第五節 危機管理
 危機管理については、〈災厄は火難・病患の類、皆止むを得ざる事共なれば、其大小軽重に従ふて、救済の制を設けて〉とあります。火事や病気のような災害は、個人の力ではどうにもならないため、被害の軽重によって救済の制度が必要だというのです。

 

第六節 士と民
 武士については、〈凡(およそ)国を治むるは則(すなわち)民を治るにて、士は民を治るの具なり〉とあります。治国は民を治めることにつながり、武士は民を治めるための道具だというのです。
 小楠は、〈勉めて産を制するが為に民を富し、産を生ずるによつて国を富し士を富すべし〉と述べています。産業を活発にするために、民の生活を経済的に安定させるべきだというのです。政府が努力して生産を司る結果、人民の富が増すというのです。

 

第七節 公開と運用
 政府の資金については、〈公に衆に示し悉く是を散じて救恤し、其他出て反(かえ)らざるの所用に給す。之に仍(よ)つて利を得る事多ければ、所用益(ますます)足るべし〉とあります。政府は、収入を民に公開し、それを用いて民の困窮を救い助けるための福祉事業に支出すべきことが語られています。このことによって利益が上がれば、政府はますます充実するというのです。
 さらに、〈年々正金の入るを見て楮銀を出し、財用を通ずる事前の如くならば、民間の生産も無数に増進し、官府も年を遂(お)ふて正金に富むべし〉とあります。紙幣に対する金・銀貨を考慮して紙幣を発行し、経済がうまくまわるようにすれば、民間の生産も増大し、政府の収入も上がるというのです。続けて、〈正金の融通自在なれば、物価の貴きは憂るに足らず、上下の便利是に過たるはなし〉とあります。政府が、紙幣に対する金・銀貨などの信用財をしっかり運用すれば、物価高などの心配はないというのです。
 ただし、〈併(しか)し乍(なが)らもし楮銀増溢(ぞういつ)の恐れあらば、正金を以て銀局或は司農局に就て楮銀を買ふて其用に給せば、官府諸局の殷富も足を翹(あげ)て俟つべし〉とあります。もし紙幣を発行しすぎた場合は、紙幣に対する金・銀貨を支出して、銀局や役所を通じて紙幣を買い集め、その銀札を政府の諸費用にあてればよいというのです。そうすれば、何もせずとも財政が豊かになるはずだというのです。

 

第八節 政府の方針
 政府の方針については、〈官府其富を群黎(ぐんれい)に散じ、窮を救ひ弧を恤(あわれ)み刑罰を省き税斂(ぜいれん)を薄し、教ゆるに孝悌の義を以てせば、下も好生の徳に懐ひて上を仰ぐ事は父母の如くなるに至らば、教化駸(にわ)かに行はれて何事をか為すべからざらん〉とあります。政府は、富を多くの人民と分かち、生活に苦しんでいる者を助け、孤児にあわれみをかけ、刑罰を緩くし、税の取り立てを減らし、教育に義をもって為せば、民も仁愛の徳によって政府を慕うようになるというのです。そうなれば、格別な措置は必要なくなるというのです。
 小楠は、〈天徳に則り聖教に拠り、万国の情状を察し利用厚生大に経綸の道を開ひて、政教を一新し、富国強兵偏(ひとえ)に外国の侮を禦(ふせが)んと欲す。敢て洋風を尚ぶにあらず。聞く人、其原頭を愆(あやま)り認る事なかれ〉と述べています。天徳や聖人の教えに則り、各国の実情を知り、国内政治の充実させて富国強兵を実現することで、外国から侮られないようにすべきだというのです。それは日本の独立自尊のためであり、洋風かぶれではないというのです。その主旨を取り違えてはならないというのです。

 

第九節 『国是三論』考
 横井小楠の『国是三論』には、経済についての方策が示されています。
 節約や倹約については、必要な経費を省くことを戒めています。生活水準については、一定の度合いに馴れてしまうと、元に戻すことの困難さが指摘されています。
 交易については、信義が重要だと考えられています。
 産業政策では、政府からの貸与によって産業を発展させ、その利益を回収する方法が示されています。研究開発においては、基礎研究を政府が行い、民間へ技術転移し、利益を得る方法が示されています。また、就業支援も政府の仕事として考えられています。
 災害については、個人の力では限界があるため、政府による救済が提案されています。
 小楠は、治国とは民を治めることであり、統治者はそのための道具であると述べています。その用い方として、民の経済的安定を産業政策で実現すべきことが指摘されています。
 政府の税収については、公開を原則とし、福祉へ支出して社会の安定を保障し、経済的利益へつなげて行くことが説かれています。さらに、政府は紙幣の発行を通じて、経済を廻していくべきことが語られています。紙幣の信頼を保障すれば、物価高などの不安材料を取り除くことができると考えられています。紙幣の流通量についても、発行と回収を適切に行って運営すべきことが語られています。
 小楠は、日本の独立自尊という立場から、各国の状況分析の上で提案を行っています。政府は富を人民と分かち合うべきであり、困窮対策・孤児対策・刑罰・税収・教育といった政策を、義や徳という点から考察すべきことが説かれています。

 

 

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