『日本式 経済論』三島中洲の章


 三島中洲(1831~1919)は、江戸時代末期から大正時代にかけて活躍した漢学者です。山田方谷の弟子です。



第一節 義利合一論

 三島は、義利合一論を唱えています(『陽明学のすすめⅥ』から引用しています)。これは、明治十九年東京学士会館での講演記録で語られたものです。この説は、『易経』にある〈利とは義の和なり〉という言葉と、師である山田方谷の教えに影響を受けています。

 儒教においては、義に比べて利が軽視されがちですが、利についての論理を補強していると考えることができます。この義理合一論は、渋沢栄一の考えにも影響を与えています。



第二節 利が先で義が後

 三島は、利の重要性を強調しています。



 義利先後の次序をいえば、利を先にし義を後にせざるべからず。しかし元来の自然よりいえば、義利合一にて、先後あるべきはずなし。試みに満天下の人を見よ。その衣食居の利を求むるに、九分九厘までは、おのれが勉強と節倹との力によれば、義により利を求めて居るなり。略奪・窃盗・詐偽などにて、不義の利を得たるものは、一厘にも当らず。




 ここで三島は、利を先にすることを説いています。義と利は一つに合うのですが、あえて言えば利が先になるというのです。もちろん、その利は自身の勉強や節約によってもたらされたものであることが前提です。泥棒など不義の利では駄目だというのです。

 では、なぜ利が先になるかというと、〈聖人も飲まず食わずに、道義は修めがたし〉という事実があるからです。利を無視して死んでしまっては、義を行うことはできないからです。そのため、〈利のための義にて、義のための利にあらず〉と語られることになるのです。



第三節 義が先で利が後

 利を義より先においた三島ですが、逆の見解も述べています。



 然るときは、義を学び得ざるうちに、身はすでに凍餓せん。これ言うべくして、行うべからざるの説なり。然れどもすでに義を知りたる上は、また利がのちになるものなり。



 これは、彼が矛盾したことを言っているのではなく、学ぶ段階において、先と後が入れ替わるということです。いきなり恰好の良い義に憧れても、それによって餓死などしてしまっては元も子もありません。ですから、まずは生きるための利を先にし、生活をしっかり安定させる必要があるということです。そうして暮らしが成り立てば、個人的な金儲けに走るのではなく、義を追い求めるべきだということです。義を知るような段階になれば、義が先になり、利が後になるということです。



 故にあるいは先となり、あるいは後となり、とうてい義利合一あいはなれざるなり。



 学びの段階において、利が先になったり、義が先になったりするのです。ですから、全体を通してみれば、義と利は一つに合い、離れなくなるものなのです。



第四節 義理軽重の権衡

 義と利が一つに合わさる段階に達したとき、状況に応じて義と利の軽重が問われることになります。特に、国家を治める為政者へは、過酷ともいえる要求が課せられることになるのです。



 国家を治むるに、かならず法律あり。法律はもと義よりいづ。故に義は不文の法、法は成文の義というて可なり。しこうしてその法律は、人の生命、人の財産を保護するためのものなれども、いったん国家を治むる道表となしたる以上は、法律を守るがためには、人の生命も害し、人の財産も没収することあり。これ一人の生命財産を損じて、千万人の生命財産を益すればなり。



 為政者において、義は、利よりも重いのです。それは、利がいらないということではありません。利をとことんまで突き詰めて考えるがゆえに、義は利よりも重いことになるのです。



 利のための義なれども、これを教ゆるには、義を重んじ、利を軽んぜざるべからず。しかし利はいらぬということは決してなきことなり。








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