『式の前日』ー護るべき価値についてー


 穂積さんの『式の前日』を読みました。いくつかの短編から構成されていて、それぞれに読み応えがあります。ここでは、題名にもなっている「式の前日」に絞って論じます。
 「式の前日」では、結婚式を明日にひかえた男女のやり取りが描かれています。二人のやり取りが淡々と続いていき、最後に、ちょっとした驚きの事実が明らかになります。

 そして、物語は、再構築を余儀なくされます。

 読者は、この物語を、最初からもう一度読み直す(読み返すではなく)ことになります。
 読者は、一度目とは明らかに異なる何かを、そこに読み取ることになります。

 私が特に素晴らしいと感じたところは、登場人物の女性が「張り合いないな」という言葉を二度続けて発しているところです。そこの言葉の間や、区切り方は素晴らしいの一言です。さらに、そのときの女性の手の動きは、感情を表す手段として、この上ない美しさを表現しきっています。私には、実際に見てくださいとしか説明の仕様がありません。
 この作品には、この世の中もまだまだ捨てたものじゃないなと思わせてくれる力があります。「これは護る価値があるものだ」ということが示されている作品です。まれにみる傑作であり、この作品をどのように評価するかによって、その人の程度を曝(さら)し出してしまう恐るべき作品でもあります。

 

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