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『幽☆遊☆白書』ー人間が人間を滅ぼすことー

  私には、少年時代に大きな影響を受けた漫画があります。それは、冨樫義博の『幽(ゆう)☆遊(ゆう)☆白書(はくしょ)』です。1990年~1994年まで『週刊少年ジャンプ(集英社)』で連載されていました。この作品は、私の精神に刻まれた傷痕の一つです。

 

人間が人間を滅ぼそうとする理由
 作中の内容は大まかに分けられますが、その中でも「魔界の扉編(仙水編)」は人気があります。仙水忍という敵役が、人間でありながら、人間を滅ぼそうとします。そのため、魔界の扉を開き、妖怪を人間界に呼び込もうと画策します。
 主人公である浦飯幽助は、妖怪退治を行う霊界探偵であり、敵である仙水はその前任者です。妖怪から人間を守るはずの霊界探偵を経験した二人は、互いに敵として対峙します。
 主人公である幽助と、その仲間の桑原は、次のような会話を交わしています。

 幽助「人間が人間を滅ぼそうとする理由か。」
 桑原「その日暮らしのオレ様にゃ想像さえつかんぜ。」

 なぜ仙水は、人間を滅ぼそうとするのでしょうか。それは、仙水が探偵業務の任務中に、見てはならないものを、〈人間の酷悪の極みともいえる営み〉を見てしまったからです。その〈悪の宴〉は、〈人間が欲望のままに妖怪を喰いものにしている光景〉でした(この地獄絵図は、『コミック版14巻p170,171』または『完全版Vol.11 p230,231』で見ることができます)。
 それから仙水は、「黒の章」に異常な興味を示し、人間そのものに疑問を持ち始めます。黒の章とは、人間の陰の部分を示した犯罪録(ビデオ)です。黒の章には、人間がおこなってきた罪の中でも最も残酷で非道なものが何万時間という量で記録されています。
 仙水は、人間の存在そのものに悪を感じ、人間全てに罪の償いを求めようとします。彼は、〈人間は生きる価値があるのだろうか。守るほどの価値があるのだろうか・・・〉という疑問を抱きます。彼は、〈オレは花も木も虫も動物も好きなんだよ。嫌いなのは人間だけだ〉と言い放ちます。彼は、戦い敗れた後、次のような言葉を残しています。

 仙水「世の中に善と悪があると信じていたんだ。戦争も、いい国と悪い国が戦ってると思ってた。可愛いだろ? だが、違ってた。オレが護ろうとしてたものさえクズだった。」

 結果的には、仙水は破れ、幽助は勝利します。しかし問題は、主張の優劣が戦いの勝敗を決したわけではないということです。私の見る限り、仙水の意見を、幽助陣営は論破できていません。そもそも、論破しようともしていません。ただ、幽助がわは、自身の価値観に立脚して戦っているだけです。つまり、互いの言い分を、一旦は五分のものとして、そこにおいて比較検討するという作業は為されていないのです。
 では、もし仮に、その地平に立ったならばどうなるのか。その問いをどう受取るかは、一部の読者の問題です。その問いを、問いとして認めてしまった一部の精神が、紡ぐしかないのです。

 

それぞれの救い
 前項の問いに際し、一つの手がかりを与えてくれるのが、作中に出てくる御手洗という少年です。彼の心の動きは注目に値します。彼は正常な精神の持ち主なのですが、「黒の章」を見せられたため人間不信に陥り、仙水の仲間になります。彼は桑原と戦い敗れ、その後に助けられます。彼は治療してくれた幽助達と、次のような会話を交わしています。

 御手洗「お前らは、人間が今までどんなひどいことをしてきたか知らないから善人ぶってられるんだよ。お前らだって、あのビデオを見れば価値感変わるぜ!! 人間は生きるに値しないってな。だから・・・。」
 幽助「だから何だ!? だから人間全部、妖怪のエサになっちまえってのか!?」
 御手洗「そうさ。お前は自分が、どんな生き物か知らないのさ。たまたま平和っぽいところで生きてるからな。だが、それは人間の本質じゃない。殺されるために並んでいる子供の列を見たことあるか? その横に蹲ってるウジ虫だらけの死体を。明日殺されることがわかっててオモチャにされてる人間を見たことあるか? それを笑顔で眺めてる人間の顔をよ。目の前で子供を殺された母親を見たことあるか!? その逆は!? 殺ってる奴らは鼻唄まじりでいかにも「楽しんでます」って顔つきだ。わかるか!? 人は笑いながら人を殺せるんだ!! お前だって、きっとできるぜ。気がついていないだけでな!!」
 幽助「――で・・・、おめェも、そんな人間の方か。」
 御手洗「・・・・・・・・・そうさ!! お前も一皮むけば同じだよ。」
 幽助「オレよ・・・、桑原に聞いたんだよ。何で、こんな奴、助けたんだってよ。したら、あいつ、何て言ったと思う? お前が"「助けてくれ」って言ってるように見えた"んだとよ・・・・・・・・・・・・。そんときゃ、笑っちまったんだけどよ。今の・・・・・・お前見てるとなんかわかるぜ。」

 この間、御手洗の顔の描写が2コマ入り、彼は涙を流します。

 御手洗「寝るとそのビデオの夢でうなされて起きるんだ・・・・・・さっきも殺された人達がみんなこっちを見てやがった。まるでボクがやったような気になってくる・・・・・・・・・。どんどん自分がうす汚ない生き物に思えてくるんだ・・・・・・・・・。わけもわからず何かを償いたくて狂いそうになるんだ・・・。誰でもよかったんだよ・・・。どうしたらいいのか教えて欲しかった。ちくしょう。ちくしょう・・・・・・。」

 この後、桑原が仙水にさらわれ、御手洗は桑原を助けたいと幽助たちの仲間になります。幽助側に立って戦う際に、彼は次の言葉を残しています。

 御手洗「ボクは弱い。それを認める勇気さえなかったから周りの人達を呪った。魔がさして、こんな恐ろしい計画に手をかしたのもボクが弱いせいだ。でも変わる。」

 彼は後に、志望校に進学しボランティアへの道を歩みます。彼の立場は、一つの解答を示しています。ただし、これは一つの解答ですが、あくまでも御手洗という少年の出した、彼の解答なのです。その解答に納得しなかったものは、その奥へと歩を進めるしかないのです。それは、まったく当たり前の話です。人はそれぞれ、自分の物語を紡ぐしかないという、当たり前の話です。
 そして、もし自分が黒の章を見たとしたら...。
この問いを自身に課したとき、日常とは区別されるある領域に、足を踏み入れたことになります。その先で、自分のために、納得の行く答えへと向かうしかないのです。

 

 

 

 

 

 


 その先で私は、十七歳のとき、一つの「真実」にたどり着きました。
 →『謳われぬ詩』

 

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