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第一部 第一章 亀井勝一郎『現代精神に関する覚書』の検討

 

  亀井は、〈近代文明が人間にもたらした害毒の中でも、とくに顕著なのは感受性の頽敗であらう〉と述べています。その内実は、〈感受性の頽敗を示す現象を、私は仮りに露骨化の傾向と名づけよう。隠れてひそかに為される行と表現の美しさ、繊細な感覚のみがそのまゝに柔軟に扱ひうるやうな微妙なもの、これを無残に蹂躙する暴力を近代文明はもたらした〉というわけです。
 具体的には、〈感受性のかゝる頽敗に、更に拍車をかけるものとして私は映画と写真術の進歩をあげたい〉と語られています。その他にも、〈機械の発達による速度の急激な増加――近代文明のかやうな特質は、我々の精神にどのやうな重圧を加へ、また歪めたであらうか。たとへば芭蕉が奥の細道を旅するに要した月日を、今日の我々は汽車のおかげで恐らく数日ですますことが出来るであらう〉とあります。確かに機械技術の発達により、ある対象への感受性が変化することは往々にしてありえることです。
 すなわち、ここでは〈明治の開国とともに始つたあの悲しむべき近代的習慣――速成化〉が問題視されているのです。亀井は、〈危険は、速成的の転換を是認する夫子自らの速成的態度にあり、それはつねに功利性とむすびついてゐる。しかも意識せぬ、乃至は速度をいよいよ早めずしては安心出来ぬという中毒症状を呈する。精神は急行列車に乗つたも同然で、あきらかに善意をもちながら、しかも宿命的な強制力で急がされてゐる〉と述べています。見事な分析だと思います。ここでは、闇雲に効率性を追求することの危険性がきちんと認識されているのです。
 亀井の分析に対して保守思想を参考にして論じるなら、急進主義を批判し漸進主義を勧めているのです。この認識は重要だと思います。ただし、単純に急進主義がダメで漸進主義が素晴らしいというだけでは論外です。夏目漱石が『現代日本の開化』で述べている内発的・外発的の区別が必要なのです。内発的とは、「内から自然に出て発展する」ことであり、外発的とは「外からおっかぶさった他の力でやむをえず一種の形式を取る」ことです。
 内発的な場合は、急進主義ではなく漸進主義を採用すべきでしょう。外発的な場合は、急進主義を取らざるを得ない場合があるのですが、そのときは漸進主義を採用できない苦渋を心に留めておくべきなのです。

 

 

 

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