政治制度論『キケロ』

 

 キケロ(Marcus Tullius Cicero, BC106~BC43)は、共和政ローマ期の政治家であり、文筆家であり、哲学者でもあります。著作である『国家について』には、政治の制度について記述されています。

  

第一節 『国家について』の政治制度
 キケロの『国家について』では、スキーピオーという登場人物の口を通して政治について語られています。まず政治の制度については、〈国政の全権が一人の者にあるとき、わたしはその一人の者を王と呼び、その国家の政体を王政と名づける。それが選ばれた市民にあるとき、その国は貴族の裁量によって治められると言われる。しかし、国民に全権がある国は、民主国――というのは、そのように呼ばれるからだ――である〉とあります。
 続けて、〈そしてこれら三つの種類の中のいずれも、最初に人間を互いに国家という結合によって結び付けたあの絆を保持する場合、たしかに完全でもなく、またわたしの考えでは最善でもないが、耐えられうるものである。そしてあるものは他のものにまさっているかもしれない。じじつ、公正で賢明な王、あるいは選ばれた、卓越した市民たちは、あるいは国民自身さえ――これはもっとも賛同できないが――不正や欲望が介入しないかぎり、ある程度安定した政体をそなえていると思われる〉と語られています。
 その上でスキーピオーは、〈わたしは最初に述べたこれら三つのものから適度に混ぜ合わせた、いわゆる第四の種類の国家がもっとも是認すべき政体だと考える〉と述べています。
 他にも、三つの国政のどれが良いかという質問に対しては、〈三つの種類のうちどれかというあなたの質問はもっともです。なぜなら、わたしはその中のどれもそれ自体別々に取り上げて是認するのではなく、それら一つ一つよりもすべてから結合されたものをより優れているとみなすのであるから。だが、もし単一のものを一つ選ぶなら、わたしは王政を是認するだろう・・・・・・〉とスキーピオーは答えています。
 また、スキーピオーは、〈王は敬愛によって、貴族は思慮によって、国民は自由によって、わたしたちの心をとらえるので、比較するならどれがもっとも望ましいか選び出すのは困難である〉と述べ、あえて言うなら王政を推しています。その上で、〈最初の三つの種類(の中で)王政がわたしの考えでははるかに優れているが、他方、最初の三つの国家の様式から均等に混ぜ合わされたものは、王政そのものにまさるだろう。なぜなら、国家には若干の卓越した、王者に似たものがあり、若干のものが指導者たちの権威に分け与えられ、若干の事柄が民衆の判断と意志に委ねられるのがよいと思われるからである〉と語られています。
 国政が欠陥のあるものに変わることについては、〈王から専制支配者が、貴族から党派が、国民から群衆と混乱が生じ、また種類そのものがしばしば新しい種類に変わる〉とありますが、〈結び合わされ適当に混ぜ合わされた国家の体制においては、指導者たちに大きな欠陥のないかぎり、ほとんど起こらない〉と語られています。

  

第二節 『国家について』の政治考察
 キケロの『国家について』に描かれている政治制度論について考えてみます。
 『国家について』には、〈あの三つの種類、王政、貴族政、および民主政から適当に混ぜられ、刑罰によって粗暴で残酷な心を・・・・・・・・・刺激しない国家が最善の状態で構成されているとわたしはみなす〉という記述があるように、混合政体が最善の国政として示されています。
 混合政体は、単一の政体では最善である王政に勝ると考えられています。混合政は、王の敬愛・貴族の思慮・国民の自由公平さを均等に混ぜ合わせることによって、王者の卓越さ・指導者の権威・民衆の判断と意志を兼ね備えた、優れた国家の体制になるとされています。異なった国家の様式を混ぜ合わせることによって、より良い国家の体制を示すこの手法は、有益な考え方であり検討に値します。

 

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