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政治制度論『ケルゼン』

 

 ハンス・ケルゼン(Hans Kelsen、1881~1973)は、オーストリア出身の公法学者であり、国際法学者です。

 

第一節 『デモクラシーの本質と価値』の自由
 ケルゼンは、〈われわれは――理念において――平等である、という仮定から、人は他人を支配してはならぬ、という要求が導き出されうるであろう。しかし経験は、もしわれわれが現実に平等であろうと欲するならば、われわれは自らを支配せしめなければならぬ、ということを教える。このために政治的イデオロギーは、いまだかつて自由と平等とをお互いに結合することを放棄しなかったのである。この二つの主義こそ、まさにデモクラシーの特色をなすものである〉と述べています。
自由と平等が、デモクラシーと結びつけられています。特に自由については、〈デモクラシーは、自由の理念に従い――仮説的ではあるが――契約により、従って全員一致により成立した秩序を、多数決によって修補形成してゆく間に、その原始的理念に単純に接近してゆくことをもって満足している〉とあります。
 多数決については、〈自由の理念から、多数決原理が導き出さるべきものであって――多く起りがちであるような――平等の理念からではない〉とあります。さらに、〈ただ――たといすべてでなくとも――できるだけ多数の人間が自由である、すなわちできるだけ少数の人間が、彼らの意思とともに、社会秩序の普遍的意思と矛盾に陥らねばならぬ、という考えだけが、多数決原理への合理的途上に導くものである。その際平等が当然にデモクラシーの基本仮定として前提せられることは、この者とかの者との値打が同じだから、この者とかの者とが自由でなければならぬという点にあるのではなく、できるだけ多数が自由でなければならぬ、という点にまさに表明される〉と語られています。
 民主政治については、〈民主政治においては、国家そのものが支配の主体としてあらわれる。ここに国家人格というベールが、人が人を支配するという民主主義的感情にとってたえがたい事実を隠蔽する〉とあります。

 

第二節 『デモクラシーの本質と価値』の国民
 国民とデモクラシーの関係については、〈デモクラシーは、その理念に従えば、共同社会意思、または比喩なしにいえば社会秩序が、これに服従するもの、すなわち国民によって創造せられる一つの国家・あるいは社会・形式である。デモクラシーは、指導者と被指導者との同一、支配の主体と客体との同一を意味し、国民の上に国民の支配を意味する〉とあります。〈デモクラシーは必然不可避的に政党国家である〉と考えられているのです。
 ケルゼンは、〈近代国家におけるデモクラシーは、間接的、議会主義的デモクラシーである。ここでは規範的共同社会意思は、政治的有権者の多数によって選挙せられたものの多数によってのみ形成せられる〉と述べています。〈自由の理念を、従ってデモクラシーの理念を制限する今まで述べたすべての要素の中で、議会主義はおそらく最も重要なものである〉と考えられています。

 

第三節 『デモクラシーの本質と価値』の議会
 議会主義については、〈議会主義とは、国民によって、普通平等選挙の基礎の上に、従って民主主義的に選挙せられた合議機関によって、多数決原理に従い、規範的国家意思を形成することである〉とあります。
 その詳細については、〈議会主義原理においても、自由の理念はその本源的な力をはばむ二重の結合の中にあらわれる。すなわちまず第一には、多数決原理と結合する〉とあります。さらに、〈第二の要素は、議会主義の分析の結果として生じたもので、意思形成の間接性である。すなわち、国家意思が直接に国民自身によって創造せられないで、たしかに国民によって構成せられた議会を通じて産出せられるという事実である〉と語られています。
 ケルゼンは、〈結局は、いかにして議会は召集せられ、構成されるか、その権限はいかなる種類、程度でなければならないか、というような方法を論ずることができるにすぎない〉と述べています。

 

第四節 『デモクラシーの本質と価値』の多数決原理
 多数決については、〈階級支配を防止するためにこそ、議会主義的多数決原理が適している。多数決原理は経験上は少数保護と結合してあらわれる、ということはすでに顕著な事実である。というのは、多数はその概念上少数の存在を前提とし、従って多数の権利は少数の存在権を前提とするからである〉とあります。続けて、〈これから多数に対して少数を保護する必然性は生じないとしても、その可能性は生じてくる。この少数保護は議会主義デモクラシーのあらゆる近代憲法において保障せられているいわゆる基本権、自由権、または人権、公民権の本質的な機能である〉と語られています。
 ケルゼンは、〈この議会主義デモクラシーのイデオロギーは、社会的現実においては到達することのできない自由であるとしても、その現実はしかし平和である〉と述べています。

 

第五節 『デモクラシーの本質と価値』の行政
 行政に関しては、〈執行の適法性は――これは民主主義立法では国民意思、従ってデモクラシーそのものを意味する――中級や下級官庁では、自治行政団体によるよりも、中央政府によって指名せられ、これに対して責任を負う単独機関、すなわち国家意思形成のこの部分の独裁的組織による方が一層よく保護せられることは、疑いがない〉とあります。
 官僚については、〈官僚政治化は、むしろある前提の下においてはデモクラシーの保持を意味する。何となれば、民主主義の原理こそは、国家がたえず新しく生れ出る一過程の最上層のみを主として把握することができるが、それ自らを、すなわち一般的意思形成の範囲に対するその抗力を問題にしないで、同一過程のさらに一層深い層に侵入することはできないからである〉と語られています。

 

第六節 『デモクラシーの本質と価値』の民主政治
 ケルゼンは、〈デモクラシーの理念を第一番に決定するものは自由価値であって、平等価値ではない〉と述べています。〈デモクラシーのための戦いは、歴史的には政治的自由のための戦い、すなわち国民が立法と執行とに参与するための戦いである〉というわけです。
 相対主義については、〈相対主義は民主主義思想が前提とする世界観である。デモクラシーは、あらゆる人の政治的意思を平等に尊重する。どんな政治的信念でも、どんな政治的意見でも、その表現が政治的意思でありさえすれば、同じように尊敬する〉とあります。
 続けて、〈この故にデモクラシーは、あらゆる政治的確信に対して、それ自らを発表し、人間の心情を争う自由な競争の中で勢力を得る平等な可能性を与えている。この故に、国民集会や議会において、議論とその反論において発展し、規範の創造に対して準備をする弁証法的な手続を民主主義的と認めることは、決して不正なことではない〉と語られています。〈デモクラシーにとって非常な特色となっている多数の支配は、反対を――少数を――その最奥の本質に従えば、ただに概念上前提とするばかりでなく、政治的にも承認し、基本権や自由権で、比例の原理で保護するという点で、あらゆる他の支配と区別せられている。しかし少数が強くなればなるほど、デモクラシーの政治はますます妥協の政治となる〉と考えられているのです。

 

第七節 『デモクラシーの本質と価値』のデモクラシー考察
 ケルゼンの『デモクラシーの本質と価値』に描かれているデモクラシーについて考えてみます。
 ケルゼンのデモクラシーでは、できるだけ多数が自由でなければならぬということが基本仮定として前提されています。そのため、デモクラシーには多数決原理が付きまといます。
 ケルゼンの意見で参照すべき箇所は、議会主義と官僚政治を論じているところです。議会主義については、間接性において多数決原理を抑制するという点が重要です。ケルゼンも述べているように、デモクラシーの理念を制限するものとして、議会主義は重要なのです。官僚政治については、官僚がデモクラシーとは異なる面において重要な役割を果たす点を評価すべきです。
少し考えてみれば分かりますが、デモクラシーにおける少数派は、多数派の悪意によって排除されるか、多数派の善意によって同化を強制させられます。そのため、デモクラシーが素晴らしいと思えるときは、自身が多数派の中に居るときに限られます。
 ケルゼンは、「多数に対して少数を保護する必然性は生じないとしても、その可能性は生じてくる」と述べています。この言い方は、ちょっとずるいです。正確に言うなら、「多数に対して少数を保護する可能性はあるが、その必然性は生じない」というのが真相です。それが、デモクラシーの本性なのです。
ケルゼンが言うように、多数はその概念上少数の存在を前提とし、多数の権利は少数の存在権を前提としています。しかし、そんなところには、多数派が少数派を保護する必要性も必然性もありはしないのです。
 基本権・自由権・人権・公民権などについては、それらが良き方向へ働くこともあるのは認めますが、偽善や欺瞞を隠蔽し、残酷や卑劣を引き起こすこともあるのです。この点は、注意を要するところです。
 ケルゼンは、相対主義は民主主義思想が前提とする世界観だと述べています。これは、間違っています。そもそも、どのような政治体制においても、相対主義など成り立ちません。民主主義が他の政体に比べ恐ろしい点は、相対主義を装って、絶対主義へ傾いて行くところなのです。

 

 

 

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