『グローバル恐慌の真相(集英社新書)』

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 中野剛志さんと柴山桂太さんの『グローバル恐慌の真相(集英社新書)』を読みました。若手で確かな実力に基づいた二人の会話形式で進み、現在のグローバリズムに対する鋭く正確な分析がなされていて大変参考になります。
 ただ、批判するつもりはないのですが、中野剛志さんの発言で間違っている箇所は指摘しておきます。

<54~55ページ>
 多分ハイエクは、日本的経営こそが自制的な秩序、スポンテニアス・オーダーであって、真の個人主義の基礎であると言ったに違いない。

→ハイエクは『隷従への道』において、〈自由主義的立場の真髄はすべての特権の否定である〉と宣言し、〈イギリスやアメリカをして自由と公正、寛大と独立の国とした伝統に対する揺るがぬ信念〉を掲げています。『自由の条件』では、〈われわれの文明を変化させている思想はいかなる国境をも考慮しないという事実〉を言い、『法と立法と自由』では、〈全人類を単一の社会に統合できるような普遍的な平和的秩序にわれわれが近づくことができるのは、正しい行動ルールを他の人びとすべてとの関係にまで拡張し、普遍的に適用することができないルールからその義務的性格を取り除くことによる以外にはない〉と述べています。よって、ハイエクが日本的経営を真の個人主義だと言うとは思えません。

<132ページ>
 私に言わせれば、グローバル化に好意的な人間は定義上、左翼ではありません。はっきり言って、反民主主義者じゃないかと思いますよ。

→ナショナリズムに基づいた民主主義者ならグローバリズムには反対しますが、反ナショナリズムの民主主義者なら、グローバル化に好意的になります。民主主義とは、多数参加の多数決なのですから、グローバル化して全人類による多数決を行うのが一番良いと思う人がいてもいいわけです(その意見が幼稚であることは置いておいて)。

 続いて、中野さんの発言で、格好いいなあと思った箇所を以下に挙げておきます。

<82ページ>
 何度も言いますが、私がやりたいのは、将来への投資なんです。「オレのことはいいんだけど、将来の子供たちの生活はどうなるんだよ」ということです。
<99ページ>
 読者のために言っておくと、政治経済学とか経済思想とか、経済学もそうですが、自然科学と違って、知識の蓄積とともに進歩していくんじゃないんですよ。私が思うに、かなり劣化しています(笑)。

 中野さんの発言ばかり取り上げましたが、私が推しておきたいのは柴山桂太さんの方です。柴山さんは『表現者』でもほぼ毎号論考を書いているのですが、書いている内容がほとんど反論できないのです。実に緻密に論理を組み立てているのです。反論できない論理構成の技術という観点から判断すると、日本トップレベルだと思います。

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