『日本経済史[第2版](東京大学出版会)』石井寛治

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 石井寛治の『日本経済史[第2版](東京大学出版会)』を読みました。
 一言でいうと、一個人とある社会が、どれだけ醜態を曝せるのかという一つの極限を示している本です。
 p.6に、〈20世紀の社会主義の現実から、ただちにマルクスが『経済学批判』その他で描いた未来社会=社会主義社会の展望そのものが破綻したとみるのは早計〉とあります。この文章が、端的に著者の思考と本書の立ち位置を示しています。人類史上最悪の思想的立場の一つに立脚し、多大な犠牲を学問的に擁護しておきながら、何の反省もせずに自己弁護に終始するという、見事なまでの卑劣っぷりを大行進しています。
 本書で強調されているところを抜き出してみると、p.17に〈他人の剰余労働を搾取〉、p.30に〈家父長的奴隷制経営説〉、p.35に〈奴隷所有者としての名主〉、p.51に〈奴隷から農奴への転化〉、p.262に〈基本的には絶対主義官僚〉、などがあります。つまり、先人たちを徹底的に貶めて、自分はきれいで素晴らしい人間だと言い張っている最低の本なのです。
 p.42に、〈女性の多くは少女の頃から老いるまでそうした労働に携わりつづけて漸く家族に必要な衣料と年貢用の麻布を作るという有様であった〉とあります。普通は、そこに衣服という生活に関われる仕事の満足や、皆の役に立つという誇りなどがあったと想像できます。しかし、著者はそれらを一切感じることなく、彼女らに同情している振りをして、その実、徹底的に彼女たちを貶めているのです。同情を装った軽蔑という、非常に醜くて正視に耐えない酷薄さが現れています。
 本書の中には、一個人の徹底的な精神の醜悪さが滲み出ていますが、驚くべきことに、その人物は東京大学名誉教授であり、日本の最高学府でこの講義をしていたのです。一つの社会が、どれだけ醜態を曝せるかの実例を、残念ながら示していると言わざるをえません。

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