『炎の陽明学 ー山田方谷伝ー(明徳出版社)』矢吹邦彦

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 大傑作です。たいへん面白くて感動しました。
 例えば第2章に、次のような方谷と、主君・勝静のやりとりがあります。

 勝静は方谷の話を黙って聴いた。深くうなずき、次に、声をたててさわやかに笑った。
 「後日の証文としていただきたい。」
(中略)
 方谷は噛みしめるように、ゆっくりと言葉を切った。
 今度は世子の勝静が方谷の顔をまじまじとみつめる番であった。・・・・・・

 偉大な人物たちの、真摯な会話が交わされています。本当に偉大な人物とは、いかなる人たちなのかの実例が示されています。方谷と勝静のその後の運命は、すさまじい時代のうねりとともに進んでいきます。歴史の激流が、否応なく偉大な二人を特別な人生へといざなっていきます。
 山田方谷とは、本物の天才にして、本当に偉大な人物です。古今東西の歴史を眺めてみると、本物の天才も、本当に偉大な人物もたくさん見つけることができますが、両方を兼ね備えた人物というのは、非常に少ないことが分かります。その人類史レベルにおいて、方谷は希少な人物だと言えます。例えば、第3章のp.318の意見書など、絶品です。第4章のp.401の、弟子である河井継之助の碑文を依頼された時に送った一句、〈碑文を書くもはづかし死に遅れ〉も、心ある者の魂に響きます。
 本書では、いくつもの場面で登場人物が涙を流しますが、これが本物の涙なのです。状況と人物が揃えば、ただ泣くしかない、涙を流すしかないという場面が生まれ、その場面においては、心ある人は涙を流すしかないという事実が示されています。その時の涙は、本物の涙であると思うのです。
 読む価値のある本なので、是非読んでみてください。もっと気軽に多くの人が読めるように、文庫化希望です。

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