『ゲーテの警告(講談社+α新書)』適菜収

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 哲学者の適菜収さんの『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』が面白かったので、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』も読んでみました。
 思わず笑ってしまったところを紹介します。p84には、〈『東京すし通読本』というデタラメな本を偶然読んだのですが、「つまみの魚と酒少々で引き上げる、潔くイキな客もいる」などと書かれていました。これでは、ラーメン屋に行ってナルトとメンマだけ食って帰るようなものでしょう。死ねばいいのに。〉とあります。p100には、〈要するに「サンプルを聴いてアルバムを買え」というだけの話なのですが、こいつらがつくっている音楽が「新しい音楽」なら、今すぐに絶滅してもかまわないと正直思いました。〉とあります。いや~、見事なつっこみですね。
 見事な指摘という点では、p101の〈オリジナルは幻想にすぎません。近代は、オリジナルは幻想であると知りながら、オリジナルを主張することが商売になるという分裂した時代です。〉が挙げられます。
 民主主義に対する指摘も的確で、p141には〈「民主」という言葉が最初に来ると、そこでピタリと思考が停止するのです〉とあります。私も、そんな人たちをどれだけ見てきたことでしょうか。p142では、〈民主主義と議会主義の混同が見られますが、とにもかくにも、今や民主主義はまるで人類の理想の政治システムでもあるかのように奉られるようになった。「世界中を民主化しなくてはならない」と考える人が増えているのです〉とあり、〈B層社会では「大きな嘘」がまかり通ります。人類は民主主義のために戦い続けたのだと。本当は逆ですよ。人類の知性は、民主主義と戦い続けてきたのです〉とあります。実に素晴らしいですね。今の日本には、民主主義万歳という変態ばかりなので、こういうまともな意見をみるとホッとしますね。
 ウィンストン・チャーチルの民主主義に対する見解についても、p144で〈その言葉は皮肉屋チャーチルにふさわしくない。これまで人類の知性が示してきたのは、やはり民主主義は「最悪の政治形態」であるということです〉と指摘されています。私は、民主主義が最悪の政治形態とまでは思いませんが、数ある政治形態の中でも最低レベルのものだとは考えています。その点で、チャーチルは馬鹿だと思います。
 さらに抜群の意見として、p148に〈現在では「議会制」と「民主主義」は、まるで同義語のように扱われていますが、選択原理が働く「議会制」が「貴族政」の亜流であることは政治学の常識です。そもそも議会は階層社会において成立しています〉とあります。まったくその通りですね。「議会制」と「民主主義」を結びつけたのは、J・S・ミルの『代議制統治論』の影響が強いと思われます。議論の緻密さではなく、口当たりの良い間違った意見が、世の中に浸透してしまう困った例ですね。何が正しいのかを見極め、歴史に学んで物事を判断するという基本がなおざりにされていると感じました。
 ちなみに私は、もちろん民主主義などではなく、政治形態としては混合政体を推しています。

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