『表現者44』

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 『表現者44』の特集は、「EUの没落 その致命的欠陥」です。EUの没落は、日本経済にも波及するため人ごとではなく、極めて深刻な事態ですが、書かれている内容はめっちゃ面白かったです。

・特集座談会
 p.032の柴山さんの発言に、〈道州制の議論がありますが、あれは「日本をEUにする」ということなんです。簡単に言うと、道州制というのは通貨と軍事だけを中央政治が持って、あとの細かな政治の取り決めとか財政の基盤は全部地方に任せましょう、という話です。〉とあります。それから、道州制にすれば地域がギリシャ化することが指摘されています。まったくその通りだなぁ・・・、と思います。

・「道州制は日本のEU化を招く(柴山桂太)」
 p.059に、〈EUでこれほどの危機が起きているにもかかわらず、EUと同じ構造に国家を改造しようとしている間抜けな国がある。言うまでもなく日本だ。〉とあり、p.063に〈道州制のようなバカげた改革論を続けたり、いい年した大人の「維新ごっこ」につきあっている時間も余裕もありはしないのである。〉とあります。
 今号の柴山さんの意見によって、道州制を推進することの愚かさは、ほぼ完膚無きまでに明らかになってしまいました。これを論理的に反証するのは、まず無理でしょう。感情論でわめき立てる間抜けはいるでしょうが・・・。

・「矛盾に引き裂かれるヨーロッパ(佐伯啓思)」
 p.066に、〈同じ生産要素であっても「資本」と「労働」ではまったく意味が違うのである。自由に浮動する「資本」と、地域に固定された「労働」の間のギャップによって、地域の格差が生み出されることになる。〉と指摘されています。まっとうな意見なんですが、このまっとうな意見をかなぐり捨ててEUは運営されていたんですよね。
 p.068で佐伯さんは、〈今日、われわれはこうしたEUの苦悶を目撃している。しかし実は、それはEU形成が具体化した時点で十分に予見できることであった。本当をいえば、何も今頃になってあたふたとするような事態ではないはずだ。〉と述べています。その通りなんで、『発言者』や『表現者』を読んでた人は、やっぱりねって思うだけです。

・「ユーロ危機の政治的意味(東谷暁)」
 注目すべき意見として、p.071に、〈今回の危機がこれまでのものに比べて深刻なのは、摩擦と混乱を通じて各国のナショナリズムに火をつけてしまったことだ。なんとなく漠然とEUは統合するだろうと思っていたが、実際に他の国がどのように行動するか目の当たりにしたら、そこには自国の利益だけが目立っていた。それでは、これまでの努力は何だったのかと思いたくなるだろう。〉とあります。

・「権力闘争の手段と化した消費増税法案(富岡幸雄)」
 p.138に、〈産業界や電力会社、官僚に押しきられて安全性の確保が十分でないまま余儀なくされた感の強い原発の再稼働〉とあります。この意見は良いですね。『表現者』は、反・脱原発の傾向が強いのですが、さすがに今回の再稼働をブラボーするほどXXではなくて少し安心しました。

・「住民・国民と衝突する市場・資本(西部邁)」
 p.163に〈「国家経済〉を乗り超えることが不必要にして不可能〉とあり、その理由が説明されています。 確かに、ず~っと言ってきましたもんね。

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