『静かなる大恐慌』柴山桂太

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 柴山桂太さんの『静かなる大恐慌』を読みました。柴山さんは、共著では何冊か出していますが、単著としては初ではないでしょうか。
 柴山さんの文章は、構成が綿密に練られていて見事な論理を示しています。具体的には、反論を封じる論理構成の技術がずば抜けていると思います。個人的には、ユーモアでは中野剛志さんの方が、ウィットでは柴山さんの方が長けていると思います。
 前作の『グローバル恐慌の真相』で、中野さんが〈私に言わせれば、グローバル化に好意的な人間は定義上、左翼ではありません。はっきり言って、反民主主義者じゃないかと思いますよ〉と述べていて、私は違和感を覚えました。今回の『静かなる大恐慌』で、柴山さんはダニ・ロドリックの説を紹介し、〈グローバル化、国家主権、民主政治の三つの要素のうち、論理的にふたつしか選択できない(p.111)〉ことを説明しています。これで、前作の不足点が埋められてしまい、反論できなくなりました(笑)
 本作の柴山さんの提案も、基本的に賛成でき、反論もできないのでそのまま紹介します。p.108には、〈それぞれ内部に多様な産業を抱えた各国の、ゆるやかな共存という理念を深く問い直すべき時期にきているように思えてなりません〉とあります。p.163には、〈国家間の対立をできるだけ抑えながら、国家の発展と資本主義の発展を一致させるべく、各国が新たな知恵を絞るべき時期にきているのは間違いありません。〉とあります。p.194には、〈危機後の世界に求められているのは、グローバル化から脱グローバル化への転換を、できる限りゆるやかに進めていくことです。〉とあります。p.197には、〈国内レベルでも国家間のレベルでも、経済の効率性だけでなく、社会的公正や政治的安定をいかに実現するかが、これから問われてくるのです〉とあります。その通りなんで、その通りですねと言うしかないですね。
 柴山さんの現在の知名度は知りませんが、現在日本のトップレベルの知性を持つ一人だと思います。今後も要注目ですね。

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