『日本防衛論(角川SSS新書)』中野剛志

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 本書は、数十年先を見据えて日本の防衛について論じられたものです。
 幅広い情報を基に、的確な評論が展開されていて大変ためになります。例えば、防衛工学におけるリスクの考え方、「国際的な経済交流が国内価格の変化と国内の所得分配に影響を与えるようになること」というグローバル化の定義、レバレッジによる資本主義のリスク、スクリューフレーション、一国の潜在成長力について、国債発行の適正について、比較優位の定理が成立しない世界について、などが挙げられます。
 本書の内容については、ほとんど頷くばかりなのですが、情報不足などの理由で同意できなかった点もあるので述べておきます。
 p.40には、〈資本主義とは、主権国家によるケインズ主義的な財政金融政策と覇権国家による国際公共財の供給という、二重の安定化装置がなければ崩壊してしまう脆弱な経済システムである〉とあります。前者はその通りだと思いますが、後者は主権国家間の協調による国際公共財の供給によって代替できると思います。
 p.93には、〈今後は、シビア・アクシデントの発生をも想定した対策や、テロ対策も含め、より安全な原発を可能にするためにさらなるコストをかけなければならないことは言うまでもない〉とあります。私は脱原発派なのですが、その理由は単純で、原発に対してのテロ対策やミサイル対策はほぼ不可能だと思うからです。本書が示しているように、地震や津波に対して原発の安全率を高めることはいくらかは可能だと思います。しかし、テロなどに対して原発の安全を保証する技術などは、一技術者としての視点から、ほぼ不可能だと思われるのです。
 また、p.102の〈再生可能エネルギー市場は国土条件の制約により大きく成長できない〉という意見と、〈太陽光発電や風力発電は、中国をはじめとする海外のメーカーのシェアが高いため、その市場が成長しても国内の雇用創出効果は限定的である〉という意見には同意できません。まず、再生可能エネルギーが成長できない根拠が恣意的です。次の意見については、日本の国土条件による制約から既存の技術では対応できない場合が多いため、日本の技術力の活用の余地が多々残されており、国内の雇用創出効果は潜在的にかなりあると考えられます。
 p.204には、〈世界が「Gゼロ」と化したならば、その最大の犠牲者となるのは日本なのである〉というのも同意できません。「国民主権(民主主義)」(p.208)の観点からは、あるいはそうかもしれません。ですが、国民主義(ナショナリズム)の観点からは、世界が「Gゼロ」と化すことによって、最大の恩恵を受ける国の一つは日本だと思うのです。なぜなら覇権国家なき時代では、日本の独立自尊が今までよりも実現しやすくなるからです。
 色々と述べましたが、日本が進むべき道として挙げられている四点については、その通りだと思います。同意できる点も同意できない点も含めて、本書は重要な情報が多々示されており、読む価値があると思います。

 

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