本書は、〈成長のための努力を捨て、成長を目指そうとする真っ当な日本国民を嘲笑するどころか、妨害をしようとする許しがたき日本人たち(p.8)〉を、論理的にけちょんけちょんに論破している本です。たいへん面白かったです。
本書にはまともなことが、はっきりと書かれています。例えば、〈経世済民を意識しているか否かを考えた場合、政府、企業、家計の順番に意識しなくなっていく(p.20)〉とか、〈経世済民という「政治」をするのは政府の役割なのだ(p.21)〉という意見など、あらためて考えると、本当にその通りだなぁと思えますね。〈そもそも政府とは「利益を追求してはならない」経済主体なのだ(p.24)〉というのも、考えてみれば当たり前なのですが、そう断言することにしびれますね。
三橋さんと言えば、経済データの使い方が桁外れにうまいです。〈「公共投資を拡大したのに成長しなかった」のではない。「公共投資を縮小したために成長しなくなった」が真実なのである(p.40,41)〉とか、〈戦前はともなく、戦後の日本の貿易依存度、輸出依存度が他国と比べて相対的に高かった時期は一度もない(p.149)〉という話など、マジでか!と驚かされます。
本書の中に、二点ほど異論があったので参考までに述べておきます。
一点目は、〈黒字になる事業であれば、政府ではなく民間企業がやるべきなのである。黒字の事業を政府が推進するなど、民業圧迫もいところだ(p.25)〉という意見です。経世済民の立場から、黒字になる事業でも政府がやるべきことは、可能性としてありえると思います。例えば、ある種のギャンブルなどです。
二点目は、〈政府が企業に、「生産性を高めてはいけない」「グローバル市場を目指してはいけない」などと「指導」することは、少なくとも日本政府には不可能だ(p.187,188)〉という意見です。確かに「指導」することは難しいですが、間接的にし向けることは可能ですし、やるべきだと思います。例えば、デフレ時に企業は、コストをかけずに生産性を高めようとして、社員にサービス残業をさせまくることがあります。そのときは政府がサービス残業の監視を強化すれば、デフレ時に生産性を抑制させたり、さらには新たな雇用を発生させやすい環境にしたりできます。
さて、現在のアベノミクスの成功から明らかなように、三橋さんが日本の経済に果たした役割は非常に大きかったと言えます。私は民主主義に疑いの目を向けているため、経済はともかく政治思想については三橋さんとは意見が異なる点もあるのですが、三橋さんの業績は評価せざるをえません。三橋さん。日本のために頑張っていただきありがとうございます。
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