『貨幣と欲望 資本主義の精神解剖学(ちくま学芸文庫)』佐伯啓思

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 本書は、2000年に出た『貨幣・欲望・資本主義』に「補論」を追加して文庫化されたものです。
 『貨幣・欲望・資本主義』を私が読んだのは、およそ10年前です。時の経過に驚いています。
 「補論」では、〈「資本主義」とは、何よりもまずは「資本」の自己増殖運動〉と定義されています。さらに、〈「資本(キャピタル)」とは、まさしく「頭=頂(キャップ)」となる「資金」であり、将来に向けて先頭をきる資金である。文字通り「頭金」なのである〉と説明されています。本書では、この資本および資本主義に対し、著者独自の鋭い洞察が光っています。
 特に、グローバリズムに対する批判は重要です。著者は、〈グローバリズムの波において特徴的なことは、一方で、経済の世界的なネットワークが作り出され、資本が自由に世界を流動すると同時に、他方で、国家間の激しい対立が生じ、ときには戦争にまで至ったということである。グローバリズムの時代とはまた、国家間対立の時代でもあるのだ〉という指摘です。この指摘は、重く受け止めておくべきでしょう。
 今回、改めて文庫版を読んでみて、著者が一貫して正しいことを言い続けてきたことに敬意を表します。しかし、この正しい意見がほとんど顧みられることなく、リーマンショックを発端とする「百年に一度」の金融危機へと突入し、日本もそれに巻き込まれてしまったわけです。これは空しいと同時に、とても恐ろしいことだと思います。論理的で筋が通った意見ではなく、グローバリズムへの根拠なき熱狂が日本列島を覆っていたわけですから。さらに恐ろしいのは、そのことの反省もほとんど人々の頭に浮かんでいないという事態です。そんな恐ろしい時代においては、著者のようなまともな感性によって記された作品を読むことで、何とか自身の精神をまともに保とうとすることが大事なのだと思います。

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