『TPP 黒い条約(集英社新書)』中野剛志 編

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 『TPP 黒い条約』は、7名の論者がTPPのいかがわしさについて論じた本です。論者は、中野剛志さん・関岡英之さん・岩月浩二さん・東谷 暁さん・村上正泰さん・施 光恒さん・柴山桂太さんの7名で構成されています。
 各論文とも素晴らしいので、TPPについてだけではなく、考え方の参考にもなると思います。各論文への反論はないのですが、最初の中野剛志さんの「序にかえて」で、少し違和感を覚えたところについて述べておきます。
 まず、TPPについての歪んだ「論の進め方」について、〈私には、こうした傾向は、日本人の国民性によるものではないかとすら思われる(p.5)〉と語られています。そうなのかなぁと疑問に思って読み進めると、今度は、〈日本の文化や日本人の国民性を省みない、性急かつ無批判な近代化が進められたのである。これこそが、日本および日本人の混乱の原因である(p.5)〉と語られているのです。論の進め方が歪んでいる理由は、日本人の国民性によるものなのか、国民性を省みなかったからなのか、どっちなんだろうと思った次第です。ここが分からなかったので、本人に確認したところ、前者の国民性は、明治以降の日本の国民性を指しているとのことでした。
 また、p.7には、〈私がTPP参加を執拗に批判してきたのも、そこに近代日本の弱点である「似而非近代性」という、とてつもなく大きな問題が横たわっているのを感じてきたからに他ならない〉とあります。私はここに違和感を覚えました。この書き方ですと、近代日本の弱点は、まだ「似而非近代性」であって「近代性」に達していないことだと読めてしまうからです。ここについても確認したところ、中野さんは近代性を全て否定しているわけではなく、特に近代の個人主義には価値を見出しているとのことでした。「似而非近代性」から「近代性」へ至ることで、(デカルトに始まる懐疑主義などを介して)個人主義に到達できるという見解でした。この考え方は、京都大学の佐伯啓思先生とは相違があるところだそうです。私は、佐伯先生の考え方に近く、個人主義を含めた近代性そのものに問題があると思っているわけです。
 この意見の相違は、たいへん面白いと感じました。すなわち、近代における個人主義と、反近代の日本流の無私の対決と言えるかもしれません。有私と無私という図式ですね。この点については、今後も念入りに考えていきたいと思います。

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