経済学の本というのは、初心者にはけっこう読みにくいと思われるのですが、本書はかなり読みやすかったです。
例えばケインズ理論についても、不況対策には「減税、低金利、公共投資」、インフレーションの危機には「増税、金利の引き上げ、公共投資の削減」と分かりやすく説明されています。〈総需要の構成要因(消費と投資)のなかでも、ケインズ理論にとって決定的に重要なのは投資である(p.58)〉とかも分かりやすいですね。
具体的には、〈予想利潤率(ケインズは、「資本の限界効率」という難しい言葉を使っていますが)と、資金の借入コストに当たる利子率を比較考量しますが、企業家が合理的な行動をとる限り、予想利潤率と利子率が等しくなるところまで投資をおこなおうとするはずです(p.58)〉が、世の中は複雑ですからこれらのことが厳密に分かるわけはないのです。そのため、〈企業家が「不確実性」の世界のなかで意思決定をしなければならないということ(p.59)〉になるわけです。
ケインズの弟子であるジョーン・ロビンソンについては、〈経済学を学ぶ目的は、経済問題に対する一連の受け売りの解答を得ることではなく、いかにして経済学者にだまされるのを回避するかを知ることである(p.81)〉という言葉が紹介されています。細かいところですが、それって目的じゃなくて手段じゃね?って思いますね。だまされないことは重要ですが、それは目的ではないですよね。
ただし、ロビンソンによって提起された第二の危機についてはよくよく考えてみる必要があると思います。第一の危機は「雇用の水準」についてであり、それはケインズの有効需要の原理によって回避されたと見なされています。第二の危機は「雇用の内容」についてです。軍事ケインズ主義などの問題を考える上でも、参考になると思います。
また、カレツキが〈「産業の指導者」が「完全雇用の維持によって生じる社会的・政治的変化に対する嫌悪」を理由に完全雇用政策に反対するようになることを論じていること(p.96~97)〉も非常に重要ですね。現代日本において、経団連の提言がめちゃくちゃなことを鑑みても、カレツキの言葉から参考にすべき論点を持ち出すことができそうです。
著者の〈かつての計画経済の失敗はもはや明らかなのですが、何事もバランス感覚は必要で、市場経済の利点を生かすべき分野と、政府がきちんと規制しなければならない分野とは慎重に区別しなければなりません(p.104)〉という意見についても、その通りだと思います。
本当はこっちにコメントをしたかったんですw
カレツキは、マルクス経済学的な資本家ー労働者という二階級の対立から景気循環が生じるという「政治的景気循環論」を唱えました。
資本家は、〈「産業の指導者」が「完全雇用の維持によって生じる社会的・政治的変化に対する嫌悪」を理由に完全雇用政策に反対する>。
他方、労働者は、雇用水準の改善を要求し、資本家と政府に対して圧力を行使する。
結果政府は、不況時には財政政策で雇用水準を高め、ある程度になれば「産業の指導者」の反対にあい財政政策は縮小していく、というものです。
歴史的にみても穴が多いわけですが(いわゆる資本主義の黄金期には成り立たなかった)、グローバル企業VS各国国民、1%vs99%などと言われる今日においては参考になるような気がしています。
蛇足:ジョーンロビンソンは不倫をしていた。