本書は、〈「経済成長への夢」「バブルの宴のあと」「競争とは何か」という三つの大きなテーマ(p.7)〉について優しく解説がなされています。
本書の最後のところで、根井氏は次のようなことを述べています。
<p.98>
私には、古典派の競争観のほうが「完全競争」を基準にした競争観よりも現実に即しているように思われますが、もちろん、このような考え方を他人に強いるつもりはありません。むしろ「経済思想の多様性」を主張してきた自身の立場からは、経済学史の中からできるだけ多様な思想を学び、みずからが経済問題を考察するときの参考にしてほしいということです。
この考え方は、根井氏の経済学に対するスタンスを端的に表しており、非常に好感が持てます。ですが、そこで満足するのではなく、ここからもう少し考えてみることができるように思えます。
ここで根井氏は、二つの価値観を提示し、その二つについて明確に優劣を付けているわけです。一つ目は、ある経済観より他の経済観の方が良いという考え方、二つ目は、多様な経済思想を学ぶのが良いという考え方です。
前者より後者を重視するというのは、学者的ですよね。一方、後者より前者を重視するのは政治的ですよね。政治については、様々な意見を参照すべきですが、何らかの経済的政策を採用する必要があるわけですし。
それでですね、学者でも政治家でもない場合は、学者性も政治性も含めて考えていく必要があるということですね。そもそも、多様な思想を学ぶべきだといっても、そこには学ぶ順序や学ぶ量についての優劣の問題があるわけです。ですから、多様な思想を学びつつ、どのような経済的観点が良いかも判断し、その判断を基に、その判断の反対意見も含めて幅広く学ぶという循環を人生に組み込む必要が出て来るわけですね。
人生って、まともに生きようとすると、けっこう大変ですよね。
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