本書は仏陀(仏陀、釈迦)の独創性を、哲学的な視点から描いた作品になります。
悪魔ナムチがブッダの心象を擬人化した存在ではなく、世俗的な価値観の具体的な人間を意味しているなど著者の考えが光ります。また、子供を捨てて出家したブッダを、最低の社会的義務を配慮していたと見なす見解も、別の角度からの考察をうながします。
ブッダの独創性についても、輪廻のメカニズムを経験的な事実を徹底的に観察し、考察することで解脱へと到達しているのだと考えられています。そういった考えの上で、最初期の仏教は骨太の体系を完成したと著者は言うのです。
ブッダを悟った人とする解釈は誤解を招くとして、目覚めた人だとすべきだとの考えも、基本ではありますが重要です。
ただし、ブッダがなぜ教えを説いたのかという問題については、疑問が残るところです。著者はここで方便をもって来ていますが、それはやはりおかしいと言わざるをえません。ここでは、ブッダが教えを説いた妥当な理由が必要になるところだからです。そこを考えていくのも、本書を読んだ者の楽しみになります。
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