『表現者59』

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 今号の特集は、「プラトンに倣い、民主主義を疑え」です。
 表紙をめくってすぐの3ページ目には、〈民主主義そのものが無秩序でアナーキーな大衆社会を生み出し、「自由」という名の放縦を充満させ、人間の品格と社会の価値を破壊しつくしている〉とか、〈この「野蛮」を増幅させているのが、ネットなど情報化社会の愚劣な大衆性である〉と記されています。
 おどろおどろしい表現ですね。民主主義に問題があることは確かですが、このような過剰な表現を見せられると、逆についていけなくなります。民主主義を問題視するなら、被害を過大に宣伝するのではなく、事実に基づいた冷静な議論が必要でしょう。これでは、大衆批判という名の大衆性だと、皮肉の一つも言いたくなってしまいます。
 やはり何かを批判するときには、広い意味での芸(ウィットやユーモアなど)が必要になってくるのだと思われます。
 以下、気になった論文にコメントしてみます。



≪南モンゴルの悲劇(下) ヤルタ協定が滅ぼしたモンゴルとチベット≫三浦小太郎
 読む価値のある論文です。楊海英『チベットに舞う日本刀』(文藝春秋)について論じられています。



≪部屋の中で旗を振るな≫佐藤洋二郎
 大上段から他人を非難しまくっているのを見ると、読んでいて不快に感じられます。批判するにしても、やっぱり芸が必要なのだと再認識させてくれます。
 この論文の冒頭には、次のような批判があります。


 日本の政治家は本当に政治家なのかと思うことがある。他人事のような話や言ったことをやらない者ばかりが、報道機関に出てしゃべっているような気がする。彼らぐらいの知識なら、自分たちのほうがましだと考えている国民は多いのではないか。


 そこまで言うなら、それを批判する者はどれだけ賢いのかと期待してしまいますよね?
 論文の最後に示されている見解は次の通りです。


 民主党はコップの中の波を大海の波と勘違いせず、目を醒ましなさいと言いたい。しばらくは解散もないのだから、どうすれば政権を奪取できるかだけを考えればいい。それが自分たちが望む二大政党制をつくる基ではないのか。


 いや~、ひどい見解ですね。この程度の知識なら、自分たちのほうがましだと(以下略)。



≪民主主義は政治を破壊する≫佐伯啓思
 民主主義について、次のような言明があります。


 こうなると、民主主義なるものが政治を崩壊させるのも時間の問題になる。崩壊という言い方が強すぎれば、政治を混迷へ突き落とすといってもよいが、いずれにせよ、民主主義こそが問題を生み出すことになる。


 やっぱり、言い方って大事だなと思わされます。冒頭(3ページ目)のような表現だとひいてしまいますが、このような言い方なら素直に聞けますよね。



≪言葉、テロル、民主主義≫藤井聡
 議論をする資格が示されています。82ページ目には、次のような指摘があります。


 さらに事態を難しくしているのは、「議論に参加する人々『全員』がこうした資格を所持していなければ、その議論は破壊される運命にある」という事実である。


 この論文に対し、「言動不一致」というテーマで色々と書けますが、その議論は破壊される運命にあるので止めておきます(苦笑)。



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