『保守の真髄』西部邁(講談社現代新書)

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 本書は、「大思想家ニシベ 最期の書!」と銘打たれています。非常にたくさんの本を出して来た西部邁ですが、これが最後の本となりそうです。

 西部邁の一連の著作を読んで来た者としては、加齢に伴い文章に堅さが出て来ているなぁと感じられます。年齢に伴う文章の変化を感じるといった意味でも、興味深い本だと思います。

 今までの著作を読んで来た人には、目新しい内容は少ないですが、G・K・チェスタトンの「狂気に一抹の魅力があることを認めぬわけではないが、それを認めるためにもこちとらが正気でなければならぬ」が座右の銘だったとか、細かい発見はあり得るでしょう。

 また、今後の弟子筋に関わることとして、興味深い文章があったので引用してみます。



 少し勝手気儘に喋りたくなった。
 私の友人である佐伯啓思氏と藤井聡氏のあいだで経済成長をめぐって論争の起こる気配が少しある。前者は「経済成長主義」によって文化の衰弱がもたらされるとみているのにたいし、後者はその反成長主義が日本国家に多大の混乱をもたらす懸念ありとみなしているからだ。むろん両者には共通点があって、それは成長主義に伴うマテリアリズムやマモ二ズムやテクノロジズムそのものには大いに懐疑的だということになろうか。両者の差異点といえば「状況の中での政策実践」としての成長政策に消極的か積極的かといった程度の話ではある。これにたいし述者は、率直にいって、明確な判断を下すことができない。



 この経済成長についての論点は重要です。佐伯啓思氏と藤井聡氏は『表現者』という雑誌に寄稿しているのですが、西部邁の引退に伴い、今後は藤井聡氏を編集長とした『表現者criterion』として継続するそうです(変な名前だと思いますが)。

 その『表現者criterion』にて、この経済成長についての議論を行い、何らかの結論は出してほしいものです。議論の大切さを説いてきたグループですので、ヘタな馴れ合いなどせずに、議論のお手本を見せてほしいですね。

 今後は、西部邁の弟子筋の動きがどうなるかといった観点に注目してみるのも、面白いのかもしれません。

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