『西部邁自死について』富岡幸一郎・編著

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 本書は、富岡幸一郎が西部邁の自死について書いた本、ではなく、西部邁の「死」をめぐる論稿を選んで編集したものです。本書の最後の方に、富岡による西部をめぐる「自死の思想」が語られていますが、ほとんどの割合が生前の西部の論稿になっています。

 富岡もまえがきで書いているように、西部の死の思想は『死生論』でほぼ語りつくされているので、それを再販するだけで良いではないかと最初は思いました(『死生論』そのものを購入しやすい形で再販すべきではありますが)。ですが、読み進めていくうちに、論稿の選択がよく練られており関心しました。特に『死生論』から『妻と僕』、そして『生と死』と続けて論稿をつなぎ、一冊にまとめることには価値があると考えを改めました。

 本書に記載されている西部の文章は、以前にすべて読んでいましたが、あらためて読んでみると、やはりさすがだと感心させられます。ところどころ、細かいところに西部が不快感を表明しており、それはちょっと言いがかりだと感じなくもないですが、全体を通して考えるに足る内容があふれています。

 ふしだらに生きており、それで良いと思っている人は、見る必要のない書物です。しかし、何とか真剣に生きたいと考えたことがある人なら、本書を手に取ってみることをお勧めします。西部の意見に同意するにせよ、反発するにせよ、それは挑戦してみる価値のあることだと、私は思うからです。

 その際に注意すべきことを述べておくなら、反発するのなら、真剣に反発してください。そうしないと、おそらく卑劣さをさらけ出すことになるでしょう。西部の思想は、薬にも毒にもなりえるものです。うかつに近づくと、大怪我をすることになります。注意が必要です。



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