本書は、福澤諭吉の経済思想に焦点を当てたものです。特に、明治一〇年代の後半に、松方正義が紙幣整理を進めるために採用したデフレ政策による深刻な不況と、それに対して福沢が展開した経済思想の紹介は実に見事です。
明治政府は困窮する民衆へ勤勉や節約を説くだけで、景気回復のための満足な対策をしていませんでした。それに対し福沢は、節倹が不況対策として有害であることと、奢侈の積極的肯定の論理を展開するのです。奢侈増大→有効需要増大→雇用量増大というプロセスの提示です。著者は、『時事新報』に連載した社説から、福沢の経済思想を丁寧に掘り起こし解説していきます。明治一〇年代に福沢は、早くも国家権力の積極的介入による景気振興策を構想していたのです。
本書は商業ベースに乗るようなものではないでしょうが、日本の学問の水準を高レベルに保つといった観点から、積極的に評価できるものです。このような著作が刊行され、専門家だけでなく私のような一般人でも容易に読めるようになっているというのは、ありがたいことです。強くお勧めします。
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