『安楽死を遂げるまで(小学館)』宮下洋一

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 本書は、欧米の安楽死事情の取材を通じて、死に方の思索を深めていくノンフィクションです。多様な面からアプローチがなされており、とても有意義な良書と言えるでしょう。強くお勧めできます。
 できるだけ冷静に取材を進める著者の態度に敬意を表しますが、日本での事例の際の彼の記述には、少なくない違和感を覚えました。


怯える視線からも、血圧測定のために、そこにいたのではないのは明らかだった。いつから、話を聞いていたのかも分からない。私は、この家族の平穏を奪っている。彼女の表情を見ながら、こうした「直撃」の残酷さに唇を噛み締めたが、彼と家族の半生すべてを物語っているこの光景を、私は、世の中に伝えるべきだと思った。たとえ彼に、「メディアの特権」、「無意味な正義」と叩かれようとも......。



 日本での取材、その事件の事例については、やりきれなさを感じます。彼らは悪くないにも関わらず、理不尽にも苦しんでいる、苦しまされている、と感じられるからです。そこには、法整備の問題と、マスメディアの問題がやはりあるのだと思われます。苦痛を紛らわせるための処置に対しては、その結果についても寛大な対応が必要だと思われてなりません。

 また、著者は〈欧米と日本の価値観が根本的に違う〉ことを述べていますが、私はそれほど価値観の違いを感じませんでした。少なくとも、本書の登場人物たちの言い分は、どなたのものも理解できるからです。その上で、態度の表明が要求されることになります。


集団に執着する日本には、日常の息苦しさはあるが、一方で温もりがある。  生かされて、生きる。そう、私は一人ではなかった。周りの支えがあって、生かされている。だから生き抜きたいのだ。長年、見つけられなかった「何か」が、私の心に宿り始めた。この国で安楽死は必要ない。そう思わずにはいられなかった。



 著者はこういった解答に至っていますが、本書を読んだ私は、日本では、そして他国においても、安楽死や尊厳死と呼ばれる死のあり方が許容されるべきだと考えています。しかも、条件をさらに緩和するべきだと考えています。


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