飲茶さんの新刊です。今作も文句なしに面白いです。難解な哲学を、分かりやすく面白くストーリーとして魅せる技量は感心させられます。
ネタバレにならない範囲で、気になった点を述べると、平等主義と功利主義を同列に扱うのは、戦略的にうまいと思いましたが、やはり正確には違う概念なので違和感を覚えました。なぜなら自由主義のところで行ったように、平等と幸福の対比が可能だからです。
また、物語の中で言及されている挨拶についての考察は、以前の『飲茶の「最強! 」のニーチェ』を読んでいると、一つの回答が提示されていて感慨深いものがあります。
そして、正義(まさよし)くんが物語終盤で到達した正義(せいぎ)の概念は興味深いものです。倫理の家で到達した「正義の前提条件」はその通りだと思いますし、同意できます。しかし、演説で語った「正義の方向性」は、私の思考とは相いれなかったですね。ある種の個人主義でしかないように思えました。最後の「正義の実践」は、まあ、いいや(笑)。
登場人物も、きわめて個性的です。変な人しかいません(褒めてます)。彼ら・彼女らの考えに同意できるかどうかは別にして、論理の構成や流れをじっくりと考えて書いたのだと感じられました。
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