2012年5月アーカイブ

 哲学者の適菜収さんの『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』を読みました。読みやすかったので、一気に読破しました。
 まず「B層」とは何かというと、p25に〈マスコミ報道に流されやすい『比較的』IQ(知能指数)が低い人たち〉とあります。思わず笑ってしまうのですが、p35に〈B層は絶対に反省することがありません。無制限に拡大した権利意識と被害者意識がB層の行動を規定します。郵政選挙で騙され憤慨し、再び民主党のマニフェスト詐欺に騙され失望し、将来にわたり「騙された!」と喚き続ける存在がB層です。〉とあります。そ、そんなはっきりと言わなくても・・・(ププッ)。
 ちょっと同意できない点としては、p53の〈今の世の中が肌に合わない人。今の世の中のどこかがおかしいと感じている人。今の世の中を深く軽蔑している人。そういう人はニーチェの言葉に耳を傾けてみるべきでしょう〉という意見が挙げられます。これは、諸刃の剣でしょう。ニーチェを読んで救われたと思った人が、ニーチェを誤解して、あるいは本当に理解して、より酷い社会不適合者になってしまう可能性はかなり高いわけですから・・・。他には、p62の〈B層の問題とは、すなわちキリスト教の問題なのです。〉というのは、さすがに一面的過ぎるでしょう。p65の〈B層が無知を自慢し、偉大な人物が死んでも「アタシ知らなーい」「誰それ?」などとわざわざネットに書き込むのは、彼らがキリスト教の影響下にあるからです。〉というのも、なんだかなぁ・・・という感じです。せめて、「キリスト教の影響がある可能性があります」程度にとどめておけばいいのに、と思ってしまいます。
 明確に同意できる意見としては、p68の〈まともな哲学者・思想家は、例外なく民主主義を否定しています。人類の知性は、民主主義と戦い続けてきたのです。民主主義は、十八世紀に発生したキリスト教カルトです。〉が挙げられます。素晴らしいですね。しみじみと、本当にその通りだなぁと思いますね。p82~83の〈わが国にも「民主主義には寛容の精神がある」「民主主義は少数意見を尊重する」などと言う人がいます。バカなんでしょうか? 民主主義に一番たりないのは寛容の精神と少数意見の尊重です。〉という点も、抜群に素晴らしいですね。私も、そのようなバ、ゴッ、ゴホンッ。そのような不思議なことを言う人を知っています。ほんの少しだけ考えてみれば、すぐに分かることなのに。
 本書は、人を選びます。人によっては、怒り狂う内容だと思います。この感想に同意点を見いだす人は読んでみることをお勧めします。この感想に怒りを覚える人は、読んでも無駄だと思います。

 本屋で別の本を探しているときに、題名にひかれて手にとって、目次を見て買うのを決めました。15名の思想家を紹介している本です。非常に分かりやすく書かれているにも関わらず、その中身は思想家のポイントを的確につかんでいます。正確で堅実で分かりやすくまとめられている良書だと思います。
 私は、著者の他の本を読んだことはないので、本書だけから判断するのですが、著者は思想家の述べていることを理解し、それを解説する能力が非常に高いと感じました。その反面、「はじめに」のような他の思想家を経由しない意見については、あまりぐっときませんでした。例えば、p7の〈おそらく、グローバルな世界、行き着くところまで行くしかないのでしょう。それに、もうやめようと思っても無理である。もう誰にもとめられない。〉というところなど、○○的感性の無い意見だなぁと思ってしまいました。まあ、この感想は蛇足です。
 思想家の紹介は、どれも大変面白いのですが、個人的に素晴らしいと思ったのはハイエクです。p208に、〈なんと奇妙な自生的秩序であることか!〉とありますが、まったく同感です。ハイエクの立法院に関する見解から、ハイエクの異常性を的確に指摘していく展開はゾクゾクします。私も「ハイエク批判の地平」という題で、別角度から勝手にハイエクを批判したことがあるのですが、ハイエクの自由主義は、かなりの欠陥品なんですよね。「哲学者キャリア・マップ」では、ハイエクについて、〈自由主義も徹底すると病的になる〉とありますが、これにもまったく同感です。
 他の思想家の紹介も、その欠点をズバズバ正確につっこんでいるので、その思想家に盲信していない限りは、たいへん面白く読めると思います。お勧めです。