本書の西部の発言から、良いセリフと、とても良いセリフを紹介します。まずは、良いセリフから。
ぼくは軍国主義は大嫌いなんだ。戦前、兵隊たちが威張りすぎていた。兵隊の虎の威を借る狐もごろごろ出てきた。そういう意味ではいやな時代だったと思う。軍国主義そのものもいやだけれども、それ以上にいやなのは、そういうくだらない軍国主義が権力として一時期はびこると、結果として、国民のほとんどすべてを平和主義者に追いやってしまうんです。そういう言い方もできる。
確かにそうですね。軍国主義は嫌なものですが、平和主義にもいかがわしさがあります。ここの嗅覚って、あんがい大事なところだと思うんですよね。いざってときに、化けの皮が剥がされないためにも。
さて、次はとても良いセリフを。
今、思い出したんだけど、イギリスの田舎に暮らしたときに、まだ娘が小学校三年生ぐらいで、近所の女の子の友達たちがしょっちゅう遊びにきていた。小さな子が遊びにきていたから、まだお人形ちゃんを持っているわけです。それが首のない人形だったり、手のない人形だったりする。ポーセリンでできたやつが多いんだけどね。それで彼女たちは、これはおばあちゃんから受継いだものだというわけです。もちろん、美意識の違いがあるから、その点は一応おくとしても、日本でおばあちゃん譲りの首のない人形、手のない人形といったら、まず母親が、こんなものは汚らしいといってゴミ箱に投げるし、そんなものを小さな女の子にやったら、女の子が地団駄踏んで怒るというようなことが常態になっている。
おばあちゃんからもらった大事な人形だといって、女の子がいつもそれを抱えているのは、掛け値なしによき風習であるとぼくは思う。でも、そういう感覚を日本人は本当に大幅に失っている。
これは、本当に良いセリフだと思います。そうは思いませんか?