『ことばの闘い』「倫理の起源58」についての議論(4)

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 (1)(2)(3)の続きです。

 議論が長くなってしまったので、過去の日記を含めて題名を修正して統一しました。


 さて、私の見解について、小浜氏から丁寧な回答をいただきました。

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コメント、ありがとうございます。

まず、小林よしのり氏についての私の発言に対するご意見にお答えします。

彼が特攻隊精神を美化しているという根拠は、『戦争論』(オリジナル版1998年幻冬舎刊)の17章と21章、特に17章です。漫画ですので、ここに文章として引用しても、そのリアリティがじゅうぶん伝わりませんから、お手数ですが、原典に当たってみてください。

彼はこの章で、あたかもすべての特攻隊員が、国のために死ぬことで英雄になれるので、国が提供してくれた物語に進んで参加したかのようなイメージを描いています。また銃後の人たちがみな、心から祝福して見送ったかのように描いています。
もちろん、そういう人たちも少しはいたでしょうが、それは多くの実態と食い違いますし、何よりも、隊員たちと見送る人たちの奥底に秘めた複雑な心境が描かれているとは思えません。小林氏のこの部分は、戦中に作られた木下恵介監督の『陸軍』のような映画が持つ深みに達していないと判断されます。

次に、木下さんは、上記のコメントで、「この特攻隊員」という形で、林氏が見聞した特定の個人の心理を細かく分析していますが、それは、情報のあいまいさからいって確かめようのない問題であり、あまりそのことを細かく詮索しても生産的でないと私は思います。

実際には、(A)のような人もいたでしょうし、(B)のような人もいたでしょう。また、

(C)そこそこ、あるいは人並み以上の公共心の持ち合わせはあるが、さすがに死ぬことが決定的であることがわかっている以上、そのことを納得するために深刻な悩みと葛藤をくぐりぬけなくてはならなかった人

とか、

(D)『永遠の0』の景浦のように、冒険心と戦闘意欲が旺盛で、死を賭することにためらいをさほど感じない人

などもいたと考えられます。私の判断では、(C)タイプが一番多かったのではないかと思います。これは想像になりますが、林氏の奥さんのいとこさんや兄さんというのも、まあ、このタイプに入るのではないでしょうか。

このことから考えて、私は、林氏が自分の都合のいいように人物像をゆがめているとは思いません。ただ、林氏の言い方に問題があるとすれば、個別の見聞をあたかもすべての特攻隊員の心理を表しているかのように一般化している点でしょうね。それは、小林批判のモチベーションの強さがそうさせたのでしょう。

次に、木下さんは、「小浜さんは、〈「志願」という形を一応とりながらも、半ば強いられてそうせざるをえなかった〉と述べています。しかし、半ば強いられていたにせよ、「志願」して行ったのだと言うこともできます。そして、前者と後者の言い方では、当の特攻隊員の決断の重みがまったく異なってきます。」と書かれています。

この両者の言い方では、どうも「志願」という言葉がマジックワードになってしまっている趣があります。もちろん木下さんのような言い方も可能だと思います。そちらを選ぶなら、おっしゃる通り、決断はそれだけ重いものとなるでしょう。

でも先に書いたように、私の考えでは、人は自分で思っているほど自由な選択意志をはたらかせて行動しているのではありません。その時々の状況に動かされている部分がとても大きいと思います。強制か志願か
という「言葉」の二項選択にこだわると(木下さんがこだわっているというのではありません)、実態に対する想像力が犠牲になりがちです。いろいろな心理状態の人がおり、ひとりの人でも日によって変わり、動揺から決断の境地へと自分を何とか仕上げていったというのが
実情ではないでしょうか。

なおご存知と思いますが、特攻隊要員と実際に出撃が決定される特攻隊員とは違っています。前者は軍の命令によって配属が決まるので、自由な選択の余地はありません。議論深化のためにはこの辺のことも考えておく必要がありそうですね。

最後になりますが、木下さんは、こう書かれています。

「ちなみに〈仲間意識〉についても、そこに公があるかどうかで、評価はまったく異なります。その仲間意識が、警察官や自衛隊員が抱くものと同系のものなのか、それとも仲間外れにされたくなくて道を踏み外す不良少年と同系のものなのかという区別が成り立つからです。」

これについては、私は、後者の可能性はあまりないと思いますよ。ここでの仲間意識は、やはり同じ戦争を戦っているという同朋意識であり、軍人としての共通の職業意識でしょう。決死の覚悟があればこそ、その同朋意識はますます強くなったものと思われます。私の記述が、少々舌足らずだったことを認めたいと思います。

総じて、私が、けっして隊員自身の「やる気」を疑っているのではなく、軍上層部の作戦の無謀さ、あまりの人命軽視を批判しているのだということをご理解ください。

ではまた。

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 私は、小林よしのり氏の味方をするつもりも、小浜氏の味方をするつもりもありません。その議論が筋が通っているなら賛同しますし、筋が通っていないなら賛同できません。

 小林よしのり氏『戦争論』は、昔読んだことがありますが、今は手元になかったので、本屋で買ってきました。大阪だと、すぐに本屋に駆け込めるので便利です。第58刷でした。息の長い作品ですね。

 『戦争論』についての見解を述べて、この議論は終わりかな?


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